(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「物語が、始まる」月影番外地

月影十番勝負は、役者高田聖子の武者修行企画で、1995年の「ねぇ、キスしてよ」を皮切りに、ほぼ年1のペースで企画・上演され、2006年の10作目「THE FINAL SASORIIX 約束」で幕となった。(2000年のみお休み)この期間には、個人的に芝居から離れていた時期があったにもかかわらず、そのほとんどを観ているのだから、わたしの高田贔屓も筋金入りと言っていいだろう。意外と不出来な作品もあるのだが、外部の作家や演出家、役者たちと渡り合った成果が少なくないことは、現在の高田聖子のステータスが雄弁に語っていると思うのだが。
月影番外地はその続編企画で、前々から川上弘美の読者だった高田が、雑誌で川上のインタビューを読んで相思相愛であることを知りプロポーズ、今回の作品の上演になったようだ。脚本に千葉雅子、演出に木野花と、えらく力の入った布陣で臨む新たなチャレンジの第一弾である。
裸の三郎(辻修)を湯舟に入れ、あれこれ話かけるゆき子(高田聖子)。実は、三郎は人間ではなく、少年の肉体を持つ〈雛形〉なのだ。近所の公園から、ゆき子が拾ってきたものらしい。ゆき子を母親のように慕う三郎だったが、日に日に彼は学び、そして成長していく。
OLのゆき子には、学者の本城(加藤啓)という恋人がいた。ふたりの関係は恋愛というにはあまりに穏やかで、一向に進展しない。その間にも、急激に成長を遂げていく三郎は、やがてゆき子に淡い恋心を抱くようになる。奇妙な三角関係の行き着くところは、果たして。
現在の高田聖子の実力をいやというほど見せつける舞台だ。全体の流れが静かなだけに、その一挙手一投足に込められた感情が、客席にまで暖かに伝わってくる。それに合わせるかのように、いつになく穏やかな芝居を見せる加藤啓も、相手役として非常にいい仕事をしている。
シンプルな舞台装置を、時に大きく、時に小さく使う巧さも見事。まるで、そこに湯があるように、水音を響かせ、光を反射する入浴シーンが実に効果的に使われている。(110分)

■データ
原作の世界を舞台上へと見事にスライドさせたメーデーのソワレ/赤坂RED/THEATER
4・23〜5・4
原作/川上弘美 脚本/千葉雅子猫のホテル) 演出/木野花 
出演/高田聖子(劇団☆新感線)、加藤啓(拙者ムニエル)、辻修(動物電気