(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「愛のテール」ニットキャップシアター第23回公演

個性派の役者で、作・演出も担当するごまのはえ率いるニットキャップシアターは京都の劇団で、1999年旗揚げ。「愛のテール」は、大阪ガスが主催するOMS戯曲賞で大賞を受賞したという作品だ。今回は2003年に地元の京都で初演されたものの再演で、東京では初上演となる。
交通事故で顔に醜い傷を負い、それが心の傷になってしまい立ち直れないゆかり(阪本麻紀)。同棲相手のあきら(安田一平)とも距離を置くようになり、すっかり引き篭もりの日々を送っている。そこに押しかけてくる母親(日詰千栄)は、なんとか娘に立ち直りのきっかけを掴ませようとするのだが、何を言っても糠に釘。
そんなゆかりの心の中で、子どもの頃に母から聞かされていたある歌謡曲の記憶が忽然と甦った。曲はちあきなおみの「喝采」だった。恋人を慮って、勝手に結婚話を進めようとするあきら。しかし、ゆかりの心の中では、同情からの結婚?、という素朴な疑問が広がっていく。「喝采」の記憶が作り出したゆかりの内側の世界では、姫という分身が(田嶋杏子)が彼女に代わって愛をめぐる不思議な物語を繰り広げていくことに。
テールは尻尾、転じて余計なものの意味のようだ。恋愛のさ中では気づかなかったのに、顔の傷がきっかけとなり、ある日突然にその余計なものが見えてしまったがために、ヒロインは愛の不信へと陥る。
しかし、その余計なもののお蔭で、ゆかりは愛に対して、無自覚、盲目的でさえあった自分に気づき、同棲相手とのなぁなぁな関係を見直すきっかけを得る。その結果、陰々滅々な世界でもがくことになるのだが、リアルと虚構の間を行き来しながら、悟りへと近づいていく。
そんなヒロインをビビッドに演じる阪本麻紀。その分身とも言うべき見た目好対照の田嶋杏子。そこはかとなく娘との絆を感じさせるおかん役の日詰千栄と、女優たちが夫々にいい味を出している。
愛をめぐる虚実両極の間で苦しみ抜いたゆかりが、最後の最後に、澱んだ沼のような懊悩の水面からぽっかりと顔を出すくだりにはちょっと感動。さらに、そこに待ち受ける男たちに置いてきぼりをくわすようなエンディングが、実に痛快だ。(110分)※東京公演は終了。5月9日から福岡公演。

■データ
烏丸ストロークロックからの客演の阪本麻紀は注目株ですねのソワレ/下北沢駅前劇場
4・24〜4・29(東京公演)
作・演出/ごまのはえ
出演/大木湖南 ごまのはえ 安田一平 筒井彰浩 門脇俊輔、高原綾子、澤村喜一郎、市川愛里、阪本麻紀(烏丸ストロークロック)、田嶋杏子(デス電所)、日詰千栄