(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「イノチトリなゲーム」サンモールスタジオ提携公演

ここのところやたら目立つような気がするダブルキャスト複数バージョンの上演。チャレンジ精神には敬意を表するし、ファンサービスの気持ちも有難いと思う。でも、贔屓の劇団でも、同じ演目にそうそう何度も足を運べないというのが、正直なところだ。まずはわき目をふらずに1本に集中し、それをしっかりと作り上げることからお願いしたい、と思うのはわたしだけ?
さて、この「イノチトリなゲーム」は、昨年12月にsmokersが「開化の華 新宿村の市」に上演した作品だが、評判が良かったのだろう、早くもよそから引きがあったようだ。問題は、キャストAとキャストBの2バージョンあることだが、関係者に知人がいるとかは別として、普通は小劇場のスターが多いキャストAを選ぶのではないか。勿論わたしもA。
地下室のような薄暗い場所に閉じこめられた男女8人。誰でもいいから1人を殺せ。さもなくば全員を殺す、というのが犯人からのメッセージだった。制限時間は60分、部屋の隅に置かれたテレビのモニターの中でカウントダウンが進む中、犯人探しも捗らない8人は、次第に自分だけは助かりたいというエゴを剥き出しにしていくが。
その場の面白さだけを重視する企画ものだったら、最高のシチュエーション。ちょっと雑だが、互いの関係を明らかにし、犯人を絞っていく面白さや、脱出方法を探っていく過程のスリルもある。幕切れのサプライズも意表をついていて、なかなか決まっていると思う。
ただし、である。物語としては大きな瑕があって、そもそも芝居としては成立しない話ではないか、と思う。というのも、最後に明らかになった犯人が、言葉少なに説明する動機には、(全員を殺す動機はあるのだが、)互いに殺し合いをさせる必然性というものがまったく見当たらないからだ。
それでも、それなりに1時間をダレずに見せてしまうのは、まさに役者の力だと思うけれど、それとて無駄な騒がしい場面が多すぎる。暴力的なシーンだって、ああ登場人物たちが喧嘩ばかりしていては、緊張感も生まれない。それぞれの役柄が見える局面や、理性的なやりとりをもう少し見たかった。静あっての動だと、つくづく思う。ましてや、知的なゲームであるところが、本作のひとつの肝だと思うのだが。
再度の再演の機会があれば、思いつきの域を出ていない現在のプロットを、じっくりと練り直す必要があるのではないか。(60分)

■データ
土砂降りの雨に襲われた平日マチネ3時の回/新宿御苑サンモールスタジオ
3・11〜3・16
脚本/広瀬格(smokers) 演出/板垣恭一
キャストA(おとなチーム)
有川マコト(絶対王様)、森下亮 (クロムモリブデン)、辰巳智秋(ブラジル)、瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)、ほりすみこ、金子岳憲(ハイバイ)、藤田美歌子(新宿芸能社)、實川貴美子(演劇集団キャラメルボックス)
キャストB(わかてチーム)
廿浦裕介(少年社中)、島崎裕気(くろいぬパレード)、西地修哉、間瀬英正、矢田一路、滝口剛 (さるしげろっく)、斎田智恵子、山神友恵(劇団仲間)