(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「斑点シャドー」JACROW#10

JACROWは、作・演出の中村暢明と東京オレンジにいた女優の蒻崎(にゃくざき)今日子のプロデュース・ユニット。2001年の旗揚げ以来、着実に公演を重ねてきて、今回がちょうど10回目となる。わたしは、初見。
台風が近づく、激しい雨の降る晩。郊外に佇む古い団地を突然やってきた美由紀(木村美月)と、義理の妹を部屋に招じ入れるとし江(蒻崎今日子)。訪ねてくる筈の兄の凌一(今里真)が来ない、と心配顔で問いかける美由紀に対し、とし江は怪訝な表情を浮かべるばかり。裏の畑でトマトの手入れをしていたというとし江を見つめる美由紀の心に、ひとつの疑惑が暗く広がっていった。
このプロローグから、物語は過去へと遡っていく。とし江と凌一の部屋の真上にあたる石橋家では、妻かほり(菊池未来)が刺され、夫の芳雄(加藤敦)が指名手配されていること。かほりが夫凌一の昔の恋人に酷似していることから、とし江は密かにふたりの仲を疑い、探偵を雇っていること。実は美由紀は凌一の妹などではなく、愛人であること、などが時間を遡っていくにしたがって明らかにされていく。
時系列を逆にする手法は、さほど目新しくはないが、冒頭に掲げた謎や、混み入った人間関係を解きほぐすように語っていく手段としては、実に有効に機能していると思う。逆回しによるシーンの見せ方が絶妙で、その結果後半まで謎とサスペンスの両方がうまく持続していく。また、舞台装置では、上階下階のふたつの部屋を重ねる見せ方が、面白い効果をあげている。
タイプは異なるが、強さと脆弱さをあわせもった女性役で、菊地未来と蒻崎今日子が好演。木村美月も、不倫の関係にはまり込んだ女の機微を見事に表現してみせる。そして、仗桐安と三浦英蔵の頭の悪い刑事コンビは絶妙のコメディリリ−フ役といっていい。
身も蓋もない言い方をしてしまえば、ふたつのカップルの痴話喧嘩を見せられているだけなのだが、登場人物たちの深い感情と、逃れられない性(さが)をしっかりと描いているので、見ごたえのあるドラマに仕上がったと思う。ラストシーンは、未来のカタストロフを予見させる悪意に満ちたワンシークエンスだが、同時に出発点にあたる幸福な時代に遡ることで、物語の奥行きを見せることにも成功している。(105分)※19日まで。

■データ
下北沢OFFOFFシアター
3・12〜3・19
作・演出/中村暢明
出演/今里真、仗桐安(RONNIE ROCKET)、成川知也、木村美月(クロムモリブデン)、三浦知之(InnocentSphere)、加藤敦(ホチキス)、菊地未来、三浦英蔵、蒻崎今日子、黒田朋子(声の出演)J