(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「葦ノ籠〜アシノカゴ〜」黒色綺譚カナリア派第8回公演

伸び盛りの劇団に活躍の場を提供していた「青山劇場演劇フェスティバル」も、今は昔。しかし、青山円形劇場の若手カンパニーへの支援策は、その後も「Aoyama First Act」に引き継がれているものとおぼしい。過去に、これをステップボードにしてきたbird's-eye view、少年社中、InnocentSphere、KAKUTAらに続いて、9thとして登場したのはここのところ成長著しい黒色綺譚カナリア派
水難事故でひとり息子を亡くし、妻も家を出てしまった。そんな孤独な男が、迷い込んだ川原で出会ったのは、失った筈の息子と妻、そして幸福な家庭だった。しかしそれは、悲劇の底に沈む彼が見た幻想にすぎなかった。息子は、川原に暮らす乞食の老婆、そして妻は幼い男娼だったのだ。
幻想の家族とともにある男は幸せだった。しかし、それとて終わりの日がやってくる。男娼の少年は、苦悩の挙句にパトロンの望みどおり、外科手術を受ける決心をする。そして、男は正気を取り戻す日がやってきて。
微妙に年代的なズレがあるかもしれないが、昨今流行の昭和ノスタルジーにも通じる、過ぎ去りし時代の空気を再生する舞台づくりが巧みだ。前作同様に、物語からは江戸川乱歩の世界の香りも立ち昇ってくる。たくさんの葦が茂る川原を劇場の中央に出現させた舞台装置はなかなか見事だが、座席の位置や観る角度によって、随分と印象が変わってくるかもしれない。
アングラのテイストは強いが、いかがわしさやエグ味は意外なまでに希薄。かつてのテント芝居を、そのまま再生する愚を避け、明快な作劇を心掛けているのは、主宰赤澤ムックの頭の良さだろう。ただし、物語としてあまりに形が整いすぎているあたり、予定調和の物足りなさもある。型破りで、得体のしれない何かがさらに加われば、次の作品への期待もさらに大きく膨らむのだろうが。(110分)※23日まで。

■データ
舞台上のすきやきの匂いがとても美味しそうだったソワレ/こどもの城青山円形劇場
3・19〜3・23
脚本・演出/赤澤ムック
出演/大沢健、下総源太朗、升ノゾミ、牛水里美、斉藤けあき、山下恵、吉川博史、芝原弘、中里順子、赤澤ムック、眞藤ヒロシ、宮地大介(タイタン)、伊藤新(ダミアン)、星耕介(oi-SCALE)、湯田昌次、尾崎宇内、立元竜生、堀越涼(花組芝居)、佐々木富貴子(東京ネジ)、堀川炎(世田谷シルク)、渡邉とかげ(クロムモリブデン