(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「投げられやす〜い石」ジェットラグプロデュース

座長クラスふたりを含む小劇場の人気者を集めたプロデュース公演。タイトルから、勝手につかこうへいの「飛龍伝」を連想したりもしたけど、岩井秀人書き下ろしの「投げられやす〜い石」は、美大系の青春物語とでもいうべき内容でした。
大学時代に、美術の分野で天才の名をほしいままにした佐藤という男(岩井秀人)。彼には、山田(山中隆次郎)というやはり美術志望の友人がいたが、その山田は、佐藤の美しい恋人美紀(内田慈)への密かな憧れを胸に秘めながらも、佐藤へリスペクトを捧げていた。しかし、その佐藤はある日、理由も告げずに皆の前から忽然と姿を消してしまった。
2年後、山田は美術から離れ、佐藤の恋人だった美紀と結婚している。突然の呼び出しを受けて、コンビニに足を運んだ山田は、病気で衰え、落ちぶれ果てた佐藤と再会する。万引きに間違えられ、コンビニの店員(中川智明)にとっちめられる佐藤だったが、川原で石を投げながら、ふたりはぎこちなくも旧交を暖めあう。しかし、やがて美紀も呼ぼうということになって。
東京デスロックの「3人いる」とかで既に知っていた筈なのに、役者としての岩井秀人の達者さに改めて驚かされた。かつての栄光から転落し、落ち目になった天才の肖像を、実にビビッドに演じている。プライドと卑屈さが交互に顔を出す、岩井演じる挫折した人間像だけでも、この芝居は十分に見る価値がある。
物語に関していえば、天才の栄光と凋落の物語に、死とエロスのイメージがチラつかせる文学性もあるが、基本的には苦味とペーソスのある青春もの。ブラックな味付け(死神の登場や、死の場面でちあきなおみの「喝采」のカラオケが流れるとか)が、いいスパイスになっているが、話の作り自体はいたってシンプルなものだ。
それゆえ、山田という人間像を作りこむことに、作・演出も担当する岩井が傾注したのも、なるほどと頷けるような気がする。岩井以外の3人も、濃やかにそれそれの役柄を演じていて、舞台上に濃密な時間を作り出したと思う。(75分)

■データ
100年じゃなく、4年か5年にひとりの天才ってビミョーさが笑えた17時の回/新宿ゴールデン街劇場
1・24〜1・27
作・演出/岩井秀人(ハイバイ)
出演/山中隆次郎(スロウライダー)、内田慈、中川智明、岩井秀人