(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「目を見て嘘をつけ」KAKUTA第19回公演

すっかり舞台の世界からはフェイドアウトしてしまったと思っていた筒井真理子がゲスト出演するということもあって、指折り数えて待っていたKAKUTAの新作。わたしがめったに見ないテレビには、結構出演もしているらしいが、本当に久しぶりの舞台上の筒井真理子を観て、ついつい「おかえり」と声をかけたくなったりして。
田舎町の小さな蕎麦屋を家族でやっている永詩路一家。店内では女子高校生たちがのんびり宿題をやっているなど、どうみても繁盛しているようには思えないが、蕎麦打ちに熱心な若い主人の澄義(若狭勝也)や妊娠中の妻火穂子(大枝佳織)を見ると幸せそうだ。ほかに家族は、怪しげな占いをやっている父親の鯛吾(内海賢二)と間抜けだが気のいい弟荒志(松田昌樹)がいる。丁度、東京で働く真路(筒井真理子)も、帰省してきている。
そんな夏休み、主人のかつてのクラスメートの雉本(成清正紀)が帰郷し、店に居候することになった。彼は恋人をめぐって刃傷沙汰を起こし、会社も辞めざるをえなくなったという。到着した日が永詩路家の母親の命日だったため、ひとり留守番することになった雉本は、突然、窓から顔を出したワンピース姿の美しい女性に話しかけられ、びっくりする。しかし、よく見ると美女はその家の長男真路だった。東京で働き、金をためた彼は、近く性同一障害で手術を受けるのだという。
いやはや、申し訳ないことに、ここまでで十分にネタバレ。わたしは、筒井真理子が神社からの階段を降りてきたところで、彼女が長男役であることを察し、もうそれだけでヤラレターと思いました。反則気味だけれども、それほど見事な配役の妙。なるほど、美しく、そして一家の母親の面影をやどす性同一障害の男役をやらせたくて、筒井真理子を呼んだわけね、納得です。
一方、前回もすごかったが、まるでつきつめるようにテーマに迫っていく桑原裕子の脚本が今回も実に素晴らしい。前提は、人それぞれに問題を抱えているということ。しかし、それを乗り越えるためには自分の思いを自らが深く信じ、現実のものにしなければならない。そういう思いを抱え、人生のギリギリのところに佇む人々を、厳しくも優しい眼差しで描いている。
それにしても、久しぶりに見る筒井真理子がいい。もともとポジティブな役柄を得意とする彼女だが、傷つく心を健気さに隠す芝居で、ヒロイン(?)の姿をきっちりと作り出す。自分自身をも励ますようなちょっと独特な台詞まわしは、なんだか懐かしさもあって、ついつい聞き惚れました。
その真路役を包み込むように、暖かい空気を醸し出すKAKUTAのレギュラー陣もさすが。中でも、ひとりサディスティックに台詞で相方の漫画家を苛め抜く桑原裕子のマネージャー役は最高。ブラジルへの客演や、前回公演で十分に知ってた筈なのに、改めて女優としての力にも感服いたしました。(125分)※16日まで。

■データ
おいしい蕎麦がつい食べたくなったソワレ/三軒茶屋シアタートラム
1・10〜1・16
作・演出/桑原裕子
出演/筒井真理子、成清正紀、若狭勝也、原扶貴子、佐藤滋、川本裕之、松田昌樹、大枝佳織、高山奈央子、横山真二、馬場恒行、桑原裕子、大塚あかね、高橋里枝、ヨウラマキ、内海賢二