(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「いのうえ歌舞伎☆號IZO」新感線プロデュース

「いのうえ歌舞伎」と銘打っての新感線プロデュース公演は昨年の「朧の森に棲む鬼」以来だが、いくら同じ看板だからって市川染五郎森田剛を比較してみても始まらない。今回は、新感線の座付中島かずきではなく、グリングの青木豪を作者に起用したあたりが見どころだろう。しかし、そうは割り切ったものの、自分が場違いに思えてしょうがない、ジャニーズファンだらけの青山劇場である。
時は幕末、土佐の国にも時代の波はじわじわと押し寄せている。足軽のせがれ以蔵(森田剛)は、独流で剣術を学んでいたが、あるとき道場を率いる武市半平太田辺誠一)に見込まれ、彼に弟子入りする。江戸で剣の修行を重ねた以蔵は、尊皇攘夷の動きが盛んになる中、武市のお供で勤王党の一員として京都へと向かい、そこで暗殺の仕事に手を染めるようになる。
京都では、幼馴染みのミツ(戸田恵梨香)や坂本竜馬池田鉄洋)と再会した以蔵。最初は、武市らに重宝がられていたが、やがて自らの思慮のなさから、師匠や仲間から厄介者の扱いを受けるようになる。尊皇攘夷が一掃された政変を境に、武市率いる勤皇党も旗色が悪くなり、以蔵も逃亡生活を余儀なくされることに。
まるで絵巻を広げていくように、スピーディに展開していくテンポの良さは、青木豪の脚本のうまさだろうか。血飛沫を派手にあげながらの殺陣を随所にはさみながら、幕末の混乱の時代を背景に、殺し屋として蔑まれ、そして畏れられた男の怒涛の生涯が描かれる。ことさらに頭の悪さを強調したり、ミツとの儚いロマンスがあったりと、独自性をしっかりと打ち出しているあたりがいい。
とはいえ、頑張っているとはいうものの(これだけの大きな舞台で初日ということを考えると上出来かもしれない)、役者としての経験が浅い森田に、全編を背負わせるのは酷というもので、中盤から後半にかけてはさすがに単調さが目だってくる。竜馬役の池田や、勝海舟を演じる粟根まことが、なかなかいいサポートを見せているが、それだけではやはりおぼつかない。昨年の「朧の森に棲む鬼」あたりと較べると、やはり作品世界の密度に大きな隔たりを感じる。
プロデュース公演とはいえ、自然と期待値が高まる新感線の看板はやはり重い。ジャニーズ系主演、キャパの大きな劇場ということもあっての安くないチケット代もあって、コストパフォーマンスの悪い、いまひとつの印象が残る観劇だった。(休憩25分を含めて220分)※2月3日まで。その後、大阪公演あり。

■データ
さすがに再度のカーテンコールにはつきあえずこっそり会場をあとにした初日ソワレ/青山劇場
1・10〜2・3(東京公演)
作/青木豪 演出/いのうえひでのり
出演/森田剛戸田恵梨香田辺誠一、千葉哲也、粟根まこと池田鉄洋猫のホテル) 山内圭哉(piper)、逆木圭一郎、右近健一、河野まさと、インディ高橋、礒野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁、川原正嗣、前田悟、木場勝己西岡徳馬