(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「コントローラー」北京蝶々第9回公演

コンスタントにアトリエ公演を重ね、着実に成長を遂げている早稲田大学劇研の現役アンサンブル北京蝶々。新作の「コントローラー」(大塩哲史作)は、手演出家コンクール2007にエントリー中で、現在、乞局の下西啓正らとともに二次審査に残り、健闘している模様。来年の最終選考(「劇」小劇場)めざして、頑張ってもらいたいところだ。
昔バンドをやっていた男友達と同棲、保険の外交でなんとか食いつなぐ織江(帯金ゆかり)は、学生時代の友人恵理子(鈴木麻美)から未来を予測するシュミレーションのソフトがあると知らされる。現に彼女は、それを使って為替や株で大儲けしている。織江はさっそくそれを手に入れ、過去のデータ入力を始める。
パソコンのディスプレーの中で繰り広げられるバーチャルな過去の光景を眺めながら、自分の人生設計のなさをいまさらのように気づく織江。恵理子は、かつてジコチューだった織江に、さんざんいいようにあしらわれた過去があった。現在の悩む織江を知った恵理子は、昔と変らぬ優しい声をかけるが。
段差を設けて、似たようなレイアウトの部屋が上下に並ぶ舞台装置。下段はリアル、上段はバーチャルと使い分けるあたり、「ささやかなSF」を謳い文句にしている彼ららしいが、残念ながらあまり機能しているようには思えない。ヴァーチャルとして映し出されるシーンはもっぱら過去ばかりだし、ならばSFチックなガジェットは不要だろう。
とはいえ、いつになくシリアスに徹する物語は悪くない。かつての関係を逆転したかのように、織江は自分の現状に思い悩み、恵理子はそんな彼女を導こうとする。しかし、恵理子とて、順風満帆なわけではなく、やがて彼女の内側に巣食った歪さが、次第に観客にも見えはじめる。
ヒロインはふたりだが、それをバーチャルとリアルで別のキャスティングとしたことは功罪相半ばだろう。物語の進む方向がやや見え難くなり、それぞれの同棲相手との関係も描かれることとあいまって、物語の焦点が観客から見えにくいきらいがある。途中の中弛みは、そのせいだろう。
しかし、幕切れで一気に表象するショッキングな恵理子の行動で、ふたりのヒロインの構図が明確になるあたりは、なかなか鮮やか。そこに至って、タイトルにもこめられたテーマが浮上する幕切れの余韻もいい。(90分)※23日まで。

■データ
40名入場でめでたく200円のキャッシュバックがあった昼ギャザのマチネ/早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ
11・16〜11・23
作・演出/大塩哲史
出演/赤津光生、帯金ゆかり、鈴木麻美、森田祐吏、垣内勇輝、岡安慶子、田渕彰展、白井妙美、松崎美由希
照明/伊藤孝(ARTCORE design) 音響/志水れいこ 舞台監督/藤田有紀彦 舞台美術/大塩哲史 宣伝美術/満富優子・江田綾乃 スチール/金丸圭 衣装/太田家世