(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「傷は浅いぞ」柿喰う客第11回公演

まるで群集劇のような前作「性癖優秀」で、両手両足の指で数えても余るほどの登場人物ひとりひとりの輪郭をブレなく見せたことに感心させられた柿喰う客。あまり間を措かないでの今年四回目の公演は、劇団のコアなる部分を支える役者たちによる四人芝居である。
売り出し中のアイドル矢衾愛弓(深谷由里香)は、念願かなって出演した歌番組の本番中に、鼻血を流すという大失態をやらかした。仕事を干され、困り果てたマネージャーの一本槍官兵衛(玉置玲央)だったが、放送局ですれ違ったプロデューサー太刀花鞘花(コロ)から出演の依頼が。放送作家の盾林美矛(七味まゆ味)と組んで彼女が作っている「電波ガール」というアイドル番組だった。
しかしその内容は、元アイドルの過去を背負う太刀花の怨念がこもるとんでもないものだった。3週勝ち抜くと冠番組がもらえ、写真集が出版できるという賞品をエサに、視聴者の前でアイドルたちにみっともない姿を曝させることが最大の狙いだったのだ。しかし、一本槍の心配をよそに、崖っぷちのアイドル愛弓は、次々と悪辣なゲームをど根性で勝ち抜いていく。太刀花の怒りが頂点に達する中、いよいよ3週目がやってくる。
幕開きから妙に懐かしく、親しみを感じるのは、かつてのつかこうへいや野田秀樹に通じる激しい台詞の応酬があるからだろう。四人の役者たちが、立ち位置を変えながら、マシンガンから叩き出すように台詞をぶつけあう展開は、なかなか痛快だ。しかし、80年代演劇と異なるのは、言葉遊びや暗喩の要素は希薄で、過剰な台詞はもっぱら物語のテンポを高めていく役割に徹している点だろう。
ただ、ちょっと物足りないのは肝心の物語で、悪玉がころりと善玉に変ったり、死がひとつのクライマックスになったりという定石にすんなり収まってしまうあたりは、もう少し脚本に粘り腰を発揮してもらいたかった気もする。まぁ、コンパクトにまとめた小気味良さは、評価できるが。
四人の濃い芝居も実にテンションが高く、気持ちよい。酷薄な美女プロデューサーを演じるコロが、視覚的にも非常に映えているが、彼女の片棒を担ぐ七味のクールさが、実はいい隠し味になっている。もちろん、深谷由梨香のなりふり構わないヒロインも最高だし、いじめられキャラに廻った玉置玲央も、いつも以上に魅力的に映った。
今年四演目というだけで尋常ではない劇団の決意を感じるが、実はこれから年末年始にかけて、さらに二演を予定している彼ら。しかし、今回の舞台を観ると、その試練が確実に血となり肉となっている印象がある。この険しい上り坂を一気に駆け上がってもらいたいものだ。(75分)

■データ
大胆に広くとった八百屋舞台も勝因のソワレ/王子小劇場
11・14〜11・26
作・演出/中屋敷法仁
出演/七味まゆ味、コロ、玉置玲央、深谷由梨香