(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ミーコのSFハチャメチャ大作戦〜ベルンガ星人をやっつけろ!〜」猫田家(プレビュー公演)

tsumazuki no ishiの女優猫田直が、お気に入りのコネクションで芝居を上演する猫田家。スエヒロケイスケ作の「ニールトーキツ」の女性版を上演した(らしい)のが3年前(残念ながら未見)。今回は、岸田戯曲賞佃典彦の書き下ろし、ハイバイ岩井秀人の演出、ほぼ二人芝居の相方はKUDAN Projectの小熊ヒデジという、いかにも豪華な組み合わせで。
昭和の歌謡界に、彗星のように現れ、さっと消えたフォークグループSST。その唯一のヒット曲「夏の小さな三角形」をひっさげ、ミーコ(猫田直)、ヒデ(小熊ヒデジ)、キンちゃんの3人は、良く言えば地道な、悪く言えばドサ廻りのコンサート・ツアーを今も続けていた。
しかし、松本での公演直前に、キンちゃんは失踪、ほぼ時を同じくしてヒデの後頭部に不可解なミステリーサークルが出現したから大変。宇宙からの侵略者、ベルンガ星人の魔手がSSTのメンバーに迫る。小さな傷口から地球人の体内に侵入し、体を乗っ取ってしまうというのがエイリアンたちの手口。しかし、ミーコを待ち受けていたのは、宇宙人の侵略を遥かに越える驚愕の事実だった。
SFというにはハチャメチャだし、昭和歌謡ドラマとしてはへなちょこ。脱力系としかいいようのない素材に、個性的な役者というスパイスとして効かせて、皿にもられた一品、という感じ。全編に漂ううすら寒い空気を面白いと喜ぶか、?と思うかで、評価は分かれるだろう。
わたしは、個性派と評するだけでは到底説明しえない猫田直の魅力を堪能。ときにペットボトルをヒデに投げつけ、ときに舞台を転げ回る、彼女の喜怒哀楽を間近で見せつけられ、すっかりお腹いっぱいになりました、ご馳走さま。しかし、何事においても過剰な人だな、猫田直。好きだけど。
ただ、苦労したのは演出の岩井秀人のはずで、どこをとっても力の入れようがない内容を、芝居のかたちに作りあげるのは、かなり大変だったに違いない。脱力に徹した佃の脚本をさらに寒い場所へと追い込む、現代口語演劇的な岩井の演出手法が、なんとも奇妙な相乗効果を生んでいる。その醒めた空気と猫田直の濃い味がひとつの皿の中に混在するオフビートな舞台だ。(90分)

■データ
終演後、SSTのTシャツとCDの物販がないか捜してしまったプレビュー(ソワレ)/五反田スタジオヘリコプター
11・21(プレビュー)11・24〜12・2
作/佃典彦(B級遊撃隊) 演出/岩井秀人(ハイバイ)
出演/小熊ヒデジ(てんぷくプロ/KUDAN Project)、猫田直(tsumazuki no ishi)、安倍康二郎、坂口辰平(ハイバイ)