(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「東京ハニロボ」あなピグモ捕獲団vol.26(2007AUTUMN)

大学ノートかレポート用紙に手書きで律儀に書き綴った主催者のご挨拶が、第三舞台の鴻上のそれを思い出させるあなピグモ捕獲団。時として80年代の人気劇団を彷彿とさせる彼らの新作は、結成10周年の記念作品でもあるようで。
東京タワーを目指して上京してきたおのぼりさんの少女、夢野幻(石井亜矢)は、駅のキオスクでカバンを盗まれてしまった。一文無しになり、仕方なくそこで働き始めた彼女は、実はそもそも小説家だった。仕事の傍らで書き始めた小説「東京タワー」を売店に並べると、通りがかった男(為平康規)にあっさりと売れてしまう。
と、あらすじの概略を書けるのは、ここまで。以降、空港の手荷物チェック場のエピソードや、夢野の小説中の人物中条アリス(神崎友里)がピクニックを目指し、それが現実からの脱出へと変っていくなど、現実と虚構がないまぜになって、はてしなくその境界線は曖昧となり、物語は捉えどころがなくなっていく。
前作「イチゴ畑で靴紐を結ぶ」で彼らを初めて観た印象は、台詞のユニゾンや、飛躍のある展開など80年代の先達をなぞるようなところがあるが、どこか清々しく、清潔感もあって、実はかなり贔屓に思っている。ただ、それは今後への期待も込めてのことで、実は線の細さや、決定的な個性のなさなど、克服してもらいたい課題も少なからずある。
そのあたりを念頭において新作を観ると、今回はやや散文的に流れ過ぎたような印象がある。そのために生じた混乱がカオスのような空間を生んでいるが、それはいいとしても、その混沌の中でもなお観客が物語を追いかけていく筋の通った芯のようなものに欠けている。タイトルの「東京ハニロボ」に収束するであろうハニる、ロボるという言葉も、どこか捉えどころがなかった。
舞台装置や映像などは、さすがに十年選手で凝ったものを見せてくれる。主演の石井亜矢も、どこか惚けた魅力があって、キオスクの店員を演じる遠藤咲子、ますだようこらとの対比も面白い。そのあたりを活かす、もう少し具象的な作品を期待したいところだ。(100分)※4日まで。12月に、福岡公演あり。

■データ
午後からの雨が上がった初日ソワレ/中野スタジオあくとれ
11・1〜11・4(東京公演)
脚本・演出/福永郁央
出演/石井亜矢、為平康規、遠藤咲子、ますだようこ、若林史子、神崎友里、斉藤邦男、久米靖馬(クロカミショウネン18)、力武修一(リケチカ)