(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「道成寺」山の手事情社

YAMANOTE NIPPONと銘打たれたシリーズ上演3演目の2作目。実は、山の手を観るのは18年ぶりのことで、最後は確かサンシャイン劇場屋上の吹きっさらしで、ぴゅーぴゅー冷たい風に震えながら観た「風通しのよいカメレオンリポート」(当時、まだ清水宏が看板だった)だと記憶している。で、さっき、劇団のHPを確認したところ、現時点で最古の公演記録データとして、やっぱ1989年のその公演が記されている。
なぜ遠のいていたかというと、90年代に入ると、主に仕事の関係で演劇を観る機会が激減したのと(言い訳)、当時すでに「PART2」などで注目を集めていた山の手事情社のスタイルが、早くも煮詰まりつつあるように思えたこと(これは本当にそう思った)、さらに最近は、劇団の方向性がアカデミックな方に向いてるように見えて、個人的にはちょっと敷居が高いかも、と思い込んでいたからだ。まぁ早い話が喰わず嫌いでもあったのだが、再び演劇への興味が深まってきた去年あたりから再び彼らの(というか安田雅弘の)活動が気になりはじめてはいた。
さて、「道成寺」は、紀州道成寺に伝わる安珍と清姫をめぐる恋と怨念の伝説で、能や歌舞伎、浄瑠璃など、さまざまな芸能を通じて、今も広く日本人に知られる物語である。美形の僧に慕情を寄せた姫が、一途な思いを袖にされたことから僧を恨み、大蛇に変身して彼を追い詰めた挙句に、身を隠した寺の鐘ごとその僧を焼き尽くしてしまった、という内容。そのバリエーションはさまざまだが、山の手事情社の「道成寺」は複数道成寺をショーケースのように並べるというスタイルに大きな特徴があって、過去に2度公演を成功させているようだ。
で、観ての感想だけれど、う〜ん、なかなか凄いですね、山の手事情社。噂には聞いてたけど、役者たちの独特の体の動きや台詞回しとか。山の手のスタイルが、その物語世界と密接に結びついている印象で、なるほど、これは一種の様式美として洗練すら感じる。古語調の台詞回しも明快で、演出を含めて悪戯に難解なところがないのがいい。
取り上げられているのは、歌舞伎の「京鹿子道成寺」、郡虎彦の戯曲「清姫」、浄瑠璃の「日高川入相花王」、そして「今昔物語集」の中のエピソードらしいが、そのひとつひとつで鬼気迫る女の執念のドラマが語られていき、さらにそれらが複合することによって、テーマが共鳴、増幅するという恐るべき相乗効果を生んでいる。
シンプルだが、絢爛と呼ぶに相応しい舞台上の空気がなんとも圧巻で、その中心にいる女優達の体の動きの美しさや迫力、決め台詞の強烈さが見事だ。蛇の動きを体現するシーンの異様な美しさは、ホント喩えようがないくらい凄い。その臨場感が、ピリピリと客席にも伝わってきました。
個人的には、「ドウジョウジ、ドウジョウジ、シラナイデショウ?」と語りかける水寄真弓のキャスリーヌが、最高でした。彼女は、二度登場し、道成寺にまつわる薀蓄と物語の問わず語りを披露する。そのほかにも、ヨッパライの女性が唐突に登場する一幕もあって、これらの大胆かつ不思議なコラージュ感が、古典芸能の門外漢で、小劇場好きのわたしにはツボでした。
それにしても、男女の価値観というか、行動原理はかくも隔たりがあるのか、という思いに改めて強く捕らわれた「道成寺」だった。冒頭、四人の女優たちが姦しく演じる卵のシーン、いったい何だろう?と思っていたのですが、あれは卵子へと繋がる、女性の生理的な一面を描いていたことに、翌日になって気づく。いやはや。(90分)※「道成寺」は終了。3番目の演目「摂州合邦辻」が6日まで。

■データ
しかし、それでも吸い込まれるように気を失う瞬間が二度もあったマチネ/赤坂RED/THEATER
10・30〜11・1(道成寺
構成・演出/安田雅弘
出演/山本芳郎、倉品淳子、浦弘毅、大久保美智子、水寄真弓、山口笑美、川村岳、山田宏平、三村聡、太田真理子、岩淵吉能、斉木和洋、野々下孝、久保村牧子、名久井守、鴫島隆文、植田麻里絵、高橋智子、越谷真美、三井穂高、後藤かつら、柿本亜紀、櫻井千恵、田口美佐子
照明・舞台美術/関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響/斎見浩平 舞台監督/本弘 衣装/渡邊昌子、栗崎和子 宣伝美術/福島治 演出助手/小笠原くみこ、高橋桃子 制作/福冨はつみ