(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「西国分寺物語」散歩道楽2007秋

プロデュース公演でかなり評判の良かったドリームダンを不覚にも見逃したので、わたしとしては1月の「くらい」以来となる太田善也の作品。もちろん、散歩道楽としての新作だ。
中央線と武蔵野線という2つのJRの路線が交わる西国分寺。教師の職を退いた、今どき珍しい頑固おやじとその一家が平和に暮らしている。今日は、オールドミスの長女が恋人とその家族を連れてくるというので、一家は朝から慌しい。いつにも増して気難しい顔をしている父親と、それを心配する母親。そんな中で、その事件は起こった。
突然の悲劇から2年が過ぎ、一家の大黒柱を失ったショックは次第に薄れてきてはいたが、家族のひとりひとりはそれぞれトラウマを抱えていた。そんな折、ご近所でマンション建設の話がもちあがり、母親が反対運動の最先鋒に立つ。周囲の人々は首をかしげながらも、彼女の人柄に引かれて運動に参加するが、彼女の心には意外な動機が秘められていた。
さすがにうまいですね、太田善也。インスピレーションは、テレビの寺内貫太郎一家からのものだろうし、オマージュを捧げるシーンもいくつかある。(一家の乱闘やおばあちゃんの役柄など)しかし、性善説に培われた暖かな心地よさが、じんわりと伝わってくるつくりになっている。人情喜劇をここまでナチュラルに作り出すことにかけては、小劇場の世界でも彼の右に出るものはいないのではないか。
ただ、いくつか細部で気になる点もある。後半に差し挟まれる過去のシーンは、物語に滋味を醸しだす素晴らしい演出方法だと思うが、あそこで父親がしみじみ呟く場面は、長女の結婚に乗り気でなかった序盤の設定と矛盾するのではないか。あの場面自体が幻想なのかもしれないが。
それと、マンション業者との和解を描いたのちに、最後にあのオチをもってくるのはちょっと頂けない気がする。コメディなので、多少の無茶は許されるのかもしれないが、あの落としどころは、実はハッピーエンドからむしろ遠のくのではないか。長女の結婚を早める方でまとめた方が、いい終わり方になったような気がするのだが、どうか。
しかし、いつものことながら、散歩道楽はベテランの起用とか(今回青年座からの客演)、実に上手い。また、父親のかつての教え子が訪ねてくる場面などは、定石どおりとはいえ、じーんと来てしまいました。今回も、気持ちよく劇場をあとにすることが出来ました。(120分)※4日まで。

■データ
早々に客席が満杯になっていた初日ソワレ/新宿御苑サンモールスタジオ
作・演出/太田善也
出演/名取幸政(青年座)、山本与志恵(青年座)、郷志郎、藤本樹子、竹原千恵、キムユス、椎名茸ノ介、蘭胡蝶、植木まなぶ、いしいせつこ、前田こうしん(道学先生)、辻川幸代(ニューアンサー)、坂口候一(81プロデュース/一の会)、ザンヨウコ(危婦人)、菊池美里(トリコ劇場)、斉藤佑介(サワズカムパニー)、石川美帆、鉄炮塚雅代、天野幹
舞台監督/赤坂有紀子 舞台美術/田中敏恵 照明/柳本友紀 音響/志水れいこ 写真/相川博昭 宣伝美術/海老澤光子 音楽/高田泰介(PLECTRUM) 演出助手/橋場ふみえ