(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ゆらめき」ペンギンプルペイルパイルズ#12

この世界とはちょっと異なるルールに支配されているPPPPの不思議な世界。彼らの描く日常は、一見ありきたりのものに映るが、実は微妙な綻びが隠されていて、そのズレがやがて物語世界を侵食していく。さて今回の新作は、いまどきの夫婦を登場させ、アクシデントや喰い違いから、平和な日常がさまざまに揺らめいていく混乱の姿を描いてみせる。
独身を満喫した末に、大人の結婚をしたと思しき進(戸田昌宏)とわたる(坂井真紀)の高山夫妻。夫婦仲も悪くないし、お互いの仕事もうまくいっている。ある日、わたるはたまたま引き受けた仕事で、若いスタッフの江尻に「恋人はいるのか?」と声をかけられる。帰宅した彼女は、笑い話としてその話を披露し、たまたま居合わせた友人の仙波(玉置孝匡)や塔子(ぼくもとさきこ)とともに、夫の進もそれを笑う。しかし、その時、進の心中に一瞬の不安がよぎった。
そのことが波紋となって、夫婦の関係のズレが生じた。夫はしなくてもいい嫉妬にかられ、妻は夫の態度が変ったことに底知れない不安を抱くようになる。そんな矢先、わたるを口説いた江尻(近藤智行)が、友人の朝比奈(小林高鹿)に伴われて、ふたりのマンションにやってくる。ふたりの用件は謝罪だったが、朝比奈の不遜ともとれる態度は、事態を混乱に導いていく。
脆弱な日常は、誤解や狂言回しの登場とともに、たちまちその基盤を侵食されていく。妄想と現実の境界線が次第に曖昧になっていくあたりは、PPPPの真骨頂だと思うが、脇役を含めた登場人物たちのそれぞれが、自分の中での思いこみを増幅させていく展開がなんとも面白い。
そんな中で、ただひとり冷静な朝比奈が、非常に不気味だ。その朝比奈が、最後は開き直った夫婦に呆れて、退場を余儀なくされるのはハッピーエンドだろうか。不条理が洪水のような押し寄せてくる物語だが、だからこそある人物の妄想が解かれるロジカルな幕切れは心地よく感じられた。これまた倉持裕の術中か。
倉持のお眼鏡にかなったという坂井真紀が、難しい役を好演。6月の「ワンマンショー」では役柄のせいか、いまひとつぱっとしなかった内田慈も、今回はぐいぐい前に出てくる芝居が多くて、満足しました。(115分)※28日まで。その後、大阪公演あり。

■データ
ベランダでの乱闘シーンをはらはらしながら最前列で見つめた初日ソワレ/吉祥寺シアター
10・17〜10・28(東京公演)
作・演出/倉持裕
出演/小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、内田慈、近藤智行吉川純広、坂井真紀、戸田昌宏
音楽/SAKEROCK