(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「おこめ」毛皮族7周年記念公演

ちょっと前から、ホームページのメンバー紹介にも、REGULAR GUESTとして拙者ムニエルの澤田育子の名を掲げているが、実際問題として彼女がいなければ公演がなりたたない状況に近いのではないか、現在の毛皮族。そんな彼女たちの行き詰まりの状況をふと心配をしてみたりもする、二度の小公演を挟んで1年3ヶ月ぶり、そして劇団としては通算15回目の本公演である。
全体は二部構成になっている。前半の本編は、昭和の犯罪史上で最悪の事件のひとつに数えられている小平事件に材をとっていて、戦後の混乱期に、「安くお米を買うことができる」などの甘言で、女性を次々と強姦、殺害した男の半生を描いていく。
一方、後半の外伝は、美味しいお米を世界に普及するためのエージェント養成の秘密機関を舞台に巻き起こる愛と陰謀の物語で、前半のシリアスな空気から一転し、すでにちらしのビジュアルなどに露出している「スチュワーデス物語」をネタに、ギャグとアクションの世界へと突入する。
そうか、こういうことがやりたかったのか、と驚かされたのが前半。大幅な潤色を加えられているとは思われるが、生まれながら犯罪者の怪物的な人間像を浮かび上がらせようというのが、この本編の狙いだろう。そういえば、小演劇公演の中には、松本清張を思わせる昭和犯罪史を扱ったものがありましたね、確か。
しかし、それは残念ながら意気ごみだけで終わっている。そもそもが、人間心理の奥深くに迫ることを得意としない毛皮族の芝居では、犯罪者の生涯を描いても通り一遍のものとしか映らない。淡々と事実を追うという手法はありな筈だが、彼女らのあっけらかんとした物語世界では集中力不足で、迫っていく対象は一向に見えてこない。この作品で米村亮太朗を客演に招いたのも失敗で、米村が出てきただけでポツドールの世界を連想させてしまう。毛皮族としてのピカレスクロマンをやりたいのだったら、別のキャストが必要だったと思う。
バラエティショー的な後半に移ると、さすがに華やかで楽しい展開にほっとするが、それとてエンタテイナーとしての役割を明確に果たしているのは、江本自身を除けば、町田マリー、澤田育子、柿丸美智恵くらいで、繰り出す技に限りがある物足りなさが残る。とりわけ、澤田がいなければ、ひどく一本調子なものになったろう。映画007シリーズのパロディも、ネタ出しに精一杯という印象を受けた。
本多劇場の広さという難しさもあるし、客席状況を見ると観客動員が頭打ちという厳しい現実もあるのではないかと察する。しかし、満を持した本公演がこれでは、ちょっと寂しい。7年という歳月をかけて積み上げてきた彼女たちのキャリアは十分に認めるが、そろそろ次のステップを見据えて、劇団内の体制を見直す時期にさしかかっているのかもしれない。(休憩10分を挟んで150分)※21日まで。

■データ
それにしてもずいぶんと空席が目立ったちょっと寂しいソワレ/下北沢本多劇場
10・9〜10・21
作・演出/江本純子
出演/町田マリー、澤田育子(拙者ムニエル)、柿丸美智恵、羽鳥名美子、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美、平野由紀、高田郁恵、金子清文、米村亮太朗ポツドール)、江本純子
舞台監督/村岡晋 照明/中川隆一 音響/加藤温 美術/伊藤雅子 装置/C-com舞台装置 衣裳/胡桃澤真理 小道具/清水克晋 音楽/小林健樹 演出助手/松倉良子 制作助手/山根千尋(毛皮族) 制作/高田雅士、照井恭平(毛皮族