(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「カロリーの消費」サンプル02

サンプルは青年団の松井周率いるユニットで、自らの作品を演出、上演することを目的としていると思しい。青年団若手自主企画の冠がとれて2作目だが、今回は、青年団リンクも外れての独立公演。わたしは、去年アトリエ春風舎で「地下室」を見ており、自然食品店を装うカルト教団の内側が時間の経過とともにぼろぼろと暴かれていくのが、面白怖かった。
老人ホームから、寝たきりの母親(羽場睦子)が誘拐された。犯人は、前からそぶりのおかしいヘルパー(米村亮太朗)だった。どうやら彼は、ベッドごと母親を、あてどもなく連れまわしているらしい。刑事(古舘寛治)は、被害者の息子宅に事情を訊きにいくが、嫁から頼まれてその家の留守番を引き受けることになり、母親(羽場睦子・二役)とその家に移り住む。刑事が頼りにならないとみた息子(山中隆次郎)は、自分でも母親を探すが。
歌を探しているという不思議な少女(渡辺香奈)やおたくの青年(大竹直)が出没する街の中をひたすらベッドを引き摺り、移動するヘルパー。一見、無責任で無目的に見える彼の行動だが、母親に冷たい息子夫婦(山中隆次郎と辻美奈子)との対比によって、彼の側に理があるように見えてくる不思議さがある。さらには、ホームの施設長(古屋隆太)までがそれに加わり、ふたりが二頭立てのソリよろしくトナカイのようにベッドを引くクライマックスの暴挙は、観る側の価値観を激しく揺さぶるスリルがある。
カロリーの消費とは、寝たきり老人をベッドごと移動するヘルパーと施設長の汗みずくのこの行為だろうか。古舘寛治と古屋隆太のふたりは、舞台上に立つだけでその場の空気を変えてしまうほどの個性を発揮しているが、その奇矯さの中にちらりと覗く人間性が印象的。いや、人となりの質(たち)が良いか悪いかは別として。
星のホールのだだっ広い空間は、シンプルなセットだが、見事に制圧されている。小細工をせずに舞台をあえて広く使う試みが、功を奏したと思う。(100分)

■データ
真夏日が帰ってきた日のマチネ/三鷹市芸術文化センター星のホール
MITAKA Next Selection 8th参加作品
9・14〜9・24
作・演出/松井周
出演/辻美奈子(青年団)、古舘寛治青年団)、古屋隆太(青年団)、大竹直(青年団)、渡辺香奈(青年団)、山崎ルキノ(チェルフィッチュ)、 米村亮太朗ポツドール)、山中隆次郎(スロウライダー)、羽場睦子