(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「[get] an apple on westside/R時のはなし」小指値 番外公演 横浜シリーズ

会場のSTホールは、中野成樹とフランケンズとかがよく使っている会場ですね。といっても、わたしは初めて。いやね、ほんのお隣とはいっても、東京から横浜は、実際の距離よりも隔たっている感じがあって、ついつい足を運ぶのが億劫になってしまいがちなんです。でも、今の小指値はちょっと見逃せないな、という気持ちに強く駆られて。
2本立ての最初は、再演となる「[get] an apple on westside」。人間たちからはぐれた子犬が、狼の母親に拾われ、彼らとともに育ち、そして再び少女に拾われ、飼い犬として生きていく物語で、30分あまりの時間に、一匹の犬の生涯を語りきる。語り手が置かれ、6人の役者たちには、犬や狼、少女の役が割り振られているが、時に組体操のように複数の役者が体を組んで、さまざまな表現を行っていく。
体を使ったユニークな表現方法と、軽快なテンポは、さながら飛び出す絵本をめくっていくようなスリルと新鮮さがある。しかも、人生(いや、犬だから犬生?)をまるのまま見せるというのには、やはり琴線に触れるものもあって、最後はじーんと来ました。とまぁ、プリミティヴであるがゆえの感動もある1本。
5分のトイレ休憩ののち、新作の「R時のはなし」。(新作とはいっても、先にザムザ阿佐ヶ谷で15分程度のパイロット版を上演済みではあるが)夏休みの学童保育に通ってくる子どもたちと先生役のおにーさん。子どもたちの中には、弱虫やいじめっ子にまじって、ひとりりゅうじという大人びた少年がいる。一方、学童のおにーさんは、出勤日にやってくる女性の教諭のことが気になっていて、なんとかアプローチをと思っている。
学校の友人とも仲良くやり、おにーさんへの思いやりも見せたりする、ちょっと不思議な少年りゅーじ。しかし、りゅーじにはある秘密があって、そのため新学期を目前に転校しなければならなくなる。おにーさんは、りゅーじが別れ際についた嘘が気になる。その一方、夏休みが終わるまでに、意中の先生に告白しようとやっきになって。
人形劇から役者のお芝居に、またその逆と、その自在な移行が素晴らしい。最後の最後は、映像まで飛び出して。おにーさんは、いわゆる熱血系だが、子どもの心を理解することも、先生の女心を掴むことも実は苦手。しかし、そのふたつの課題も、おにーさんは散々悩んだり、大胆な行動に出たりした結果、やがて収束へと向かう。そのあたりのカタルシスはなかなかのものだ。
最後の最後で、おにーさんは、去ったりゅーじの思いを理解し、再び彼に思いを傾けることができる。そして、思いを寄せる先生へも無謀にアタック、大胆不敵な告白をやりとげる。いやはや、なんとも心浮き立つ幕切れで、素敵過ぎます。
いいよね、小指値。しばらくは彼らから目が離せそうにありません。(30分+60分)

■データ
はるばる来たぜ横浜、のマチネ/横浜STホール
9・15〜9・17(STホール)、9・22(BankART Studio NYK
作/北川陽子 演出/野上絹代([get] an apple on westside)篠田千明(R時のはなし)
出演/篠田千明、竹田靖、大道寺梨乃、中林舞、野上絹代、山崎皓司、高橋紗也佳、小沢な哲人(oOLOm
衣装/藤谷香子 オブジェ・照明/上田剛 音響/柳川しおり 宣伝美術/鶴松理恵 舞台監督/山本ゆい(mon)