(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「けんじのことはよく知らない」東京ネジ第8回公演(その1)

前説によれば、通常の劇場での公演とは別に、この劇団では年に1度くらいずつ劇場以外で芝居を上演しているとのこと。芝居と観客の距離をぐっと縮めてくれる、悪くない企画だ。今回の会場、茶房高円寺書林は、高円寺駅北口に広がる商店街の中をずんずん進んで5分くらいのところにある可愛らしいカフェである。
東京で大学に通う三女のかえで(久我千代)が帰郷し、三姉妹が茶の間であれこれ話をしている。次女のさくら(佐々木富貴子)にしか明かしていなかった同棲が、生真面目で堅ブツの長女さつき(佐々木香与子)にバレで焦る三女。実は、長女はバツイチで、次女にも、長すぎた春が続く恋人のけんじがいる。しかし、どうやらさくらはけんじと大喧嘩をしている模様だ。互いの話が想い出話になり、やがて先に他界した母親をめぐる記憶に話題が及んで。
仲のいい姉妹たちが、茶飲み話に花を咲かせるうちに、そこから家族相互の濃やかな思いが浮かび上がってくる。最後は、母親の想い出に往きつく形は、こういう話のひとつの定石だろう。そこからはみ出る面白さがあればもっと良いが、ひとりひとりのキャラクターが浮き彫りになる旨味があって、非常に手堅く作られている。幕が降りたあとの余韻も心地よい。(40分)
■データ
自転車に乗ったお巡りさんが外を行き来し、何やら近所が騒がしかった6時からのソワレ/茶房高円寺書林
9・12〜9・26
作・演出/佐々木香代子
出演/佐々木香与子、佐々木富貴子、久我千代(ウイズユー)