(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「歌姫」東京セレソンデラックス

1997年に宅間孝行と武田秀臣によって旗揚げされ、長田敏靖(脚本家)作と伊藤秀裕(映画監督)演出で活動してきた東京セレソンが母体。2001年にサタケミキオ宅間孝行の別名義)作・演出に移行し、東京セレソンDXを名乗るようになったという。サタケミキオは、テレビメディアでも活躍する時の人で(「アタックNO.1」や「花より男子」等の脚本)、今回の演目は2004年初演作品の再演のようだ。
四国の海に面した土佐の田舎町にあるオリオン座。町の人々に親しまれたこの映画館も、今日で閉館。今まさに60年代の隠れた名作「歌姫」の上映で幕を閉じようとしている。そこに、小泉ひばりが、息子を伴いはるばる東京からやって来る。この映画館は、彼女と確執のあった父親にとって、想い出の場所だったのだ。
現代から時代は遡り、昭和三十年代に。終戦のごたごたで記憶喪失に陥った父は、母や自分についての記憶を失い、この町で暮らしていた。過去をなくした彼を暖かく包む、映画館主の一家や町の人々。館主の娘との間に、恋も芽生えつつあった。そこに彼を探して、一人の女性が訪ねてくる。
「涙と笑いのウェルメイドプレイ」の看板を掲げるだけあって、今どき珍しいくらいストレートな芝居で畳み掛けてくる。そんなわけで、ベタな笑いを積み重ねる前半は、白々しさが先にたってしまい、正直萎えてしまった。
しかし、泣きのドラマをこれでもかと見せつけられるうちに、次第に気持ちは和んでくるから不思議だ。そして、最後にはついにそれに屈服せざるをえなかった。定石どおりとはいえ、主人公らの無邪気な恋、しかし突然現れる過去、しかしその彼らを引き裂く運命の裏側にも悲劇がある。涙の押し売りだとも感じたけど、意外と丁寧に作られているのに感心した。半世紀という時の流れをまたいで、次の世代の出会いに繋げる幕切れも良かったと思う。
ただ、いささか長すぎる感じも。コアなファンには楽しめるのだろうが、後半にさしかかるあたりに用意されている宅間と宮前のつっこみ合戦は、アドリブが不出来だったこともあるけど、余計だった。(150分)※8月5日まで。

■データ
台風が通過した日のソワレ/新宿シアターサンモール
7・11〜8・5
作・演出/サタケミキオ
出演/宅間孝行村川絵梨、宮前利成、阿南敦子、永田恵悟、杉田吉平、西村清孝、飯島ぼぼ、吉成浩一、竹森りさ、西慶子(劇団虎のこ)、丸山麗、大見遥、蘭香レア