(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「THE BEE 日本バージョン」NODA・MAP番外公演

野田秀樹が英語で書き下ろし、昨年ロンドンで初演した作品を、日英の2バージョンで繰り広げる野田地図の番外公演。スルーするつもりが、あまりに評判がいいので、急遽キャンセル待ちにエントリー(前日に電話予約)して、当日券で観ることに。
舞台下手から現れる帰宅途上のサラリーマン。しかし、家へと続く道には警官隊によってバリケードが築かれ、警察官に行く手を阻まれてしまう。脱獄囚が妻の子どもを人質にして、わが家に立て籠もっているという。犯人は、自分の妻子に会わせてほしいと、要求しているいう。しかし、当の妻はそれを拒否。埒のあかない状況に焦れたサラリーマンは、自ら犯人の妻を説得に犯人宅に赴くが、本番も辞さないストリッパーだという脱獄囚の妻のつれない態度に逆ギレし、犯人宅を乗っ取り、警察を通じて脱獄囚と交渉を始める。
原典は筒井康隆の短篇「毟りあい」(「メタモルフォセス群島」所収)で、筒井の作品世界をほぼそのまま伝える内容といっていい。開演前に流れるキャンディーズ伊藤咲子らのアイドル歌謡は、まさにその70年前後の時代の雰囲気づくりだし、次第にその行動をエスカレートさせていくサラリ−マンの役を演じる野田は、筒井ワールドの登場人物を忠実に演じているように思える。
野田のアイデアだという蜂(THE BEE)は、狂気の象徴として使われているのだと思うが、平凡といえば平凡。後半、一対一で野田と対峙する秋山菜津子は、さすがに手堅いけれど、もう少し濃厚なエロチシズムを醸すなどして、中盤でせっせとサラリーマンを演じる野田を脅かす場面があってもよかったのではないか。
昭和という時代にも、筒井康隆の作品世界にも慣れ親しんでいる一日本人としては、いまさらといった感が強く、1時間強という上演時間が正直やけに長く感じられた。なぜ今、筒井康隆なのかにピンと来なかったせいもあったと思う。むしろ、男女の配役が逆転するというロンドンバージョンの方を見るべきだったかもしれない。なお、紙を大胆に使った舞台美術は、新鮮で面白かった。(70分)※日本バージョンは9日まで。その後、12日から29日までロンドンバージョン。

■データ
マチネ/三軒茶屋シアタートラム
6・22〜7・9(日本バージョン)
脚本/野田秀樹&コリン・ティーバン(Colin Teevan) 演出/野田秀樹
出演/野田秀樹秋山菜津子近藤良平(コンドルズ)、浅野和之シスカンパニー