(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ノモレスワ。」クロカミショウネン18

クロカミショウネン18は、2002年に加藤健一事務所、文学座出身のメンバーを中心に結成されたようだ。シチュエーション・コメディを標榜しているが、劇団の掲げる「嘘と勘違いのトリックアート」が、ミステリ的との評判もあって、個人的に気にかかっていた。わたしは、11回目の公演の今回がようやくの初見。
夫婦にとってお馴染みのリゾートホテルの一室。妻に過去の記憶を思い出してほしくて必死になる夫。しかし、妻はそれに応えることができない。夫は絶望的な気分に駆られ、部屋の窓から飛び降りるが、そこは5年前の同じホテルの一室へと繋がっていた。夫は、彼を気遣う兄とともに、妻を不幸へと追いやった自分の過去を塗り替えるために、歴史を少しづつ改変しようと思いつく。しかし、そのたびに予期せぬ歪みが生じ、現在を狂わせていく。何度も繰り返し修正を加えた挙句、ようやく彼は思い通りの現在を実現させるが…。
やや偏執狂的とも思われる執拗さで、過去改変の手順が精緻に描かれていく。しかし、タイムパラドックスをテーマにしているにしても、そこまで緻密にやる必要ないがあったかどうかは疑問で、そのくどさが単調。笑いを盛り込んではあるものの、かなり退屈だった。主人公の夫の奔走を描くにしても、もう少し時間短縮の工夫がほしいところだ。
しかし、最後の最後、理想の現在を手に入れたと思った刹那、主客が逆転する一瞬は、非常にスリリングだ。明らかに座り心地の悪い結末を選択する不自然さはあるが、ありがちなハッピーエンドよりも、歪なテーマが浮かび上がる怖さを選択したのは、正解だったと思う。まったく共感できない主人公を設定した作者の意図が、ここにきて理解できたような気がした。
各場面に顔を出す娼婦のリリーはこの物語におけるひとつのキーパースンだが、終盤、役者が入れ替わって、あっと思わせる、それが伏線となって導かれる事実に、ミステリ的な面白味があって、上手いと思った。笹野というキャスティングも絶妙としかいいようがない。
ただし、某メディアに「若年性認知症の云々」という自己紹介分が掲載されていたが、それを堂々と謳ってしまうと、いくらなんでもネタバレになってしまいますよね。(120分)

■データ
最終日マチネ/中野ザ・ポケット
6・20〜6・24
作・演出/野坂実
出演/渡辺裕也、吉田亜貴代、加藤裕、久米靖馬、和田良、青木十三雄(ヒューマンスカイ)、日ヶ久保 香阪上善樹、柴田みゆき、太田鷹史、楢原拓(チャリT企画)、米田弥央カムカムミニキーナ)、笹野鈴々音(風琴工房)
舞台美術/袴田長武(鴉屋) 音楽/北原慎治(ダムダム弾団) 照明/菊地謙一  音響/平井隆史(末広寿司) 舞台監督/大友圭一郎  演出助手/北川翔子  宣伝美術/オクマタモツ 制作/大谷美有希 プロデューサー/樺澤良