(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「息・秘そめて」ポかリン記憶舎

地上3cmに浮かぶ楽園、と自らを称するポかリン記憶舎。和服美人のキーワードも、この劇団ならではで、非常に魅力的。主宰の明神慈を中心に97年に旗揚げで、主に春と秋の季節を選び、公演を行っている。
町の片隅で、写真家を講師に招いての小さな規模の講座講習会が行われている。しかし雨のせいか、定員10人のクラスで、集まっているのはその半分。夫を亡くした老嬢、夫婦もののカップル、若い男性や物憂げな表情を浮かべた女性など。定刻が過ぎたところで、講座は静かに始まる。
デジカメを使った自己紹介や使い捨てカメラを使った撮影というありがちな講座の内容を眺めていると、こちらも実際の写真講習会に参加しているような錯覚に陥る。つくりものの空気が希薄なことも作用して、自然とその静謐な世界に引き込まれている自分に気がつく。
ただ、中盤でにわかに浮上する事件性は、登場人物たちの間に何らかの秘密があることを暗示するが、そこから一向に波紋が広がっていかないもどかしさがある。観客に示されるのは、ほんのヒントのようなものに過ぎないのだ。
たとえ観客の想像に委ねるにしても、もう少しイメージが膨らむ思わせぶりがほしいところ。遅刻した女性はなぜ講習会へ執着を見せたのか、グラフィック・デザイナーの男は講師になぜ問い詰めるような口調を向けたのか、参加者の若い男と遅刻した女性の関係は、などなどいくつもの「なぜ」が、最後の最後まで放置されてしまっているように見えるのは、マイナスに思えた。あとひと押しで、想像力を起動させられそうな気がするのだが。
通常の入り口を閉鎖し、エレベーターで客入れをしていたが、なるほど、あの舞台美術は素晴らしい。アゴラ劇場の雰囲気を一変させたセットで、シンプルだが作品世界にうってつけの浮遊感ある空間を出現させていたのに、感心させられた。(80分)※24日まで。
■データ
初日ソワレ/こまばアゴラ劇場
9・19〜9・24
作・演出/明神慈
出演/中島美紀、日下部そう、浦壁詔一、古綾田將一(reset-N)、古屋隆太(青年団)、福士史麻(青年団)  境宏子(リュカ.)、カネダ淳、井上幸太郎、桜井昭子
音楽/木並和彦 舞台美術/杉山至+鴉屋 舞台監督/寅川英司+鴉屋  照明/木藤歩 音響/尾林真理 写真/松本典子 AD/松本賭至 衣裳/フラボン