(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「crossing / program-B 5seconds」風琴工房 PRESENTS

風琴工房が取り組んでいるcrossing というプロジェクトの二演目。カップリングの「おやすまなさい」とはこれまた対照的な、手に汗を握るというか、息が詰るような会話劇。社会派の雄とでも言うべきパラドックス定数が99年に初演、2004年に再演した野木萌葱の作品である。
拘置所の面会室。若き弁護士(山ノ井史)と、墜落事故を引き起こしたとの責任を問われている旅客機の機長(浅倉洋介)のやりとり。そう、これは、1982年に実際に起きた羽田沖日航機墜落事故に取材し、逆噴射という流行語まで生み出した墜落5秒前のコクピットで何が起きたかを解き明かそうという試みである。
プライドの殻に閉じこもったかと思うと、時に饒舌にもなる。しかし、そこには狂気の翳りもあって…、という扱い難い依頼人に手を焼く弁護士の卵。事務所の上層部には何かの思惑があるようで、それがさらに彼を悩ませている状況がある。しかし、接見を重ねるうちに、混沌とした機長の話の中から、事故の瞬間の真相のようなものが見えてくる。
外部作品の演出という主宰詩森のチャレンジもあるのだろうが、本作についていえば、問われるのはやはり風琴工房の男優陣の力量だろう。それぞれに異なった複雑さを持った難役と想像するが、浅倉はときに垣間見せる狂気の演技に見るべきものがあったと思うし、山ノ井も軟弱な風貌(失礼)を逆境に立ち向かう真摯さに活かすしたたかさがあった。そういう意味で、劇団として収穫のあったチャレンジだったと思う。
それにしても、先のサンモールスタジオの「Nf3 Nf6」といい、本公演といい、引く手数多の野木萌葱である。今どき珍しい鋭い社会性という持ち味もあるのだろうが、作中に充満する緊張感の密度では、抜きん出た才能の持ち主といっていいだろう。(70分)
■データ
初日15時の回/駒込La grotte
6・16〜6・17
作/野木萌葱 演出/詩森ろば
出演/浅倉洋介、山ノ井史