(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「少女とガソリン」阿佐ヶ谷スパイダース

「日本の女」(2001年)、「はたらく男たち」(2004年)に続く、阿佐ヶ谷スパイダースの暴走する男たちシリーズの第3作。もともと猫のホテルからの客演が多い阿佐ヶ谷スパイダースだけれど、このシリーズはまさに両劇団のジョイント公演の趣き。今回は、お馴染みの面々に犬山イヌコも加わり、さらに豪華な布陣で送る阿佐ヶ谷スパイダースの新作である。
寂れた街の片隅で、ひっそりと営業する呑み屋。この店こそ、この街を支えてきた清酒工場が潰れて、杜氏の山路(池田鉄洋)や谷田部(伊達暁)ら蔵元の残党たちがその復興を夢見て、たむろしている。店主の玉島(中村まこと)も、工場の職人だった。しかし、工場跡には高齢者向けのリゾート施設のオープンが予定され、数日後にはそのオープニング・セレモニーが予定されているという。
今日も今日とて、店で盃を重ねる男たちのもとに、すごいニュースが飛び込んでくる。施設のオープニング・イベント、彼らが自分達のシンボルとあがめたてている美少女アイドル、リポリンがやってくるというのだ。熱い男玉島を旗頭に、勝手に盛り上がった彼らは、ツーリングの途中に立ち寄ったゲイの青年(中山祐一郎)や、蔵元を逆恨みするアル中男(松村武)らを巻き込み、とんでもない誘拐計画を企てる。
飛んで火に入る夏の虫よろしく、アイドル本人(下宮里穂子)をともない、店を訪れるマネージャーの丸代(犬山イヌコ)、あっさりと男達の主張に同調するアイドル、と玉島のリーダーシップのもと、計画がとんとん拍子に進む前半は、コメディタッチを前面に押し出し、軽快なテンポで物語が進められていく。しかし、その細部には、杜撰かと思えるほどの緩さがあって、それが観ていて実はすごく気になっていた。
やがて後半に入ると、それが伏線だったことが判ってくるわけだが、山路の破天荒な暴走を、違和感なく前半の緩い展開から繋ぐあたりはさすが。血しぶきがあがり、思わず息を呑むシーンもあって、どうなることかハラハラさせられるが、家族愛を着地点にもってきて、いい感じで観客の意表をついてくる。
差別問題というシリアスなテーマを掲げながら、テーマの重さに屈することなく、賑やかで活気のあるお芝居を通したつくりも素晴らしい。1ヶ月の長期公演ということもあって、スズナリを赤一色に染めあげた劇場丸ごとのデコレーションも、芝居を盛り上げている。(130分)※東京公演は7月4日まで。

■データ
ソワレ/下北沢ザ・スズナリ
6・9〜7・4(東京公演)
作・演出/長塚圭史
出演/中村まこと猫のホテル)、松村武(カムカムミニキーナ)、池田鉄洋猫のホテル)、中山祐一朗伊達暁、富岡晃一郎、大林勝、下宮里穂子、犬山イヌコNYLON100℃