(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「楊貴妃の漢方薬」ファントマ 

いつも派手派手しいチラシが目につき、気になっていたファントマ。主宰の伊藤えん魔は、前身のこれっきりハイテンションシアター/KHTを経て、96年ファントマをスタートさせる。地元の大阪ばかりでなく、シアター・サンモールのクラスで公演をうてるくらいに、東京でも観客動員があるようだ。
中国、唐の時代の物語。嗅覚に優れる楊玉環は、たまたま行き逢った薬売りから見込まれて、漢方の秘法を伝授され、開いた薬局が繁盛する。おりしも齢を重ね、度重なる戦役でかつての勢いを失いかけていた玄宗皇帝を、薬の調合で甦らせた楊は、女性としては最高位にあたる貴妃を授けられ、皇帝の寵愛を受ける。しかし、楊の兄国忠を登用し、失政を招いたことから、玄宗と楊は部下と民衆から追われる身となってしまう。
笑いをふんだんに交えたB級テイストの活劇で、芝居の質としてそれなり。B級という点では、かつての新感線もそういう位置にあったが、あそこまでのレベルには達していない。看板女優の美津乃あわは、なるほどの美貌。しかし、芝居は素人ではないという程度で、正直ヒロインとしては精彩を欠く場面もあって、やや物足りない。今回についていえば、玄宗皇帝役の藤元英樹のがんばりで、なんとかクライマックスを乗り切ったという感じだ。
ただし、話のつくりは悪くなく、楊貴妃がライチを好んだというエピソードを始めとして、史実の美味しいところ取りが達者だし、玄宗自らが楊貴妃を縊死させたという史実を大幅に潤色した幕切れも泣かせる。とくに、玄宗の嗅覚の話は定石どおりとはいえ唸らせる。怪しく舞台を行き来する伊藤えんまがちょっとした肝だが、せっかくの腹筋善之介の客演などを、もう少し活かしたいところ。(130分)※17日まで。大阪公演は終了。

■データ
初日ソワレ/池袋シアターグリ−ン BIG TREE THEATER
6・9〜6・17(東京公演)
作・演出/伊藤えん魔
出演/美津乃あわ、藤元英樹、浅野彰一、保田圭/つつみかよこ(Wキャスト)、腹筋善之介(Piper、IQ5000)、上瀧昇一郎 (空晴)、伊藤えん魔、盛井雅司、斉藤潤、田村K-1、天野美帆、坂本ユカ、内田誠、倉増哲州、篠佑子、才花菜月、他