(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「おねがい放課後」ハイバイ

20歳の若者志賀ちゃんを演じる志賀廣太郎に尽きるハイバイの新作。主人公の志賀ちゃんは、普通の人の4倍で肉体的に歳をとってしまう奇病に冒されている大学生。そんな設定を事前に聞かされていたけれど、開演前に演出家自らのアナウンスで、それだと80歳ということになってしまうので、直前の稽古で1年に3歳づつ歳をとっていく設定に変えた、という説明あり。なるほど。
大学の演劇サークルの部室で、志賀ちゃんが友人二人と雑談をしている。話題は、志賀ちゃんが密かに憧れているサークル内の女子のこと。そこに、当の本人(石橋亜希子)がやってくるが、彼女は新しいクラブの顧問(古館寛治)が決まったというニュースを伝える。
新顧問の品川という名を聞き、驚愕する志賀ちゃん。彼は世界的な有名な演出家だった。品川の指導のもと、サークルでは「ハムレット」を上演することになったが、初対面で品川は志賀ちゃんがいつもつけている鬘を、わけのわからない理由でひっぱがす。傷つく志賀ちゃんに追い討ちをかけるように、品川は演技指導で彼に厳しくあたりまくり、ついには役を降ろしてしまう。友人の姉(永井若葉)を交えて、品川への復讐計画がもちあがったりするが、めぐりめぐって公演当日を迎える。
見た目がおっさんの大学生という設定で、もっとコメディ色が強いものになるのかと思っていた。いや、これは凄いですね。笑ったあと、それ以上に切ない思いにとらわれる。例えば、演出家の苛めで自分の部屋に引き篭ってしまう場面や、押しかけてきた女ともだちとの初体験の場面など、笑いと紙一重の向こう側にある悲哀が、ぐんぐん迫ってきて涙を抑えるのに、本当に困った。志賀廣太郎の力量を見せつける場面には、本当に事欠かない。
作・演出が、そこまで意図して作ったとしたら本当に素晴らしいが、以前に見たハイバイの芝居よりは、明らかに一枚上手なのは間違いない。友人が志賀ちゃんに対する認識を素直に改めるくだりや、息子を心配する父親のエピソードなど、登場人物たちの役柄に応じたビビッドな気持ちが伝わってくるいい場面がいくつもあった。
ラストシーンの黄泉の国へガールフレンドと手をとって旅立つという場面は、物語の帰結としてはきれいだけれども、物足りない。少なくとも、友人の姉が企てた復讐計画は、杜撰きわまりないもので、死者が出るほどのものとは思えないのだが。少し欲張りかもしれないが、どうせだったらもっと別の結末を見せてもらいたかった気がする。(105分)※終演後に、「歯医者」と題した次回公演の未完成な一場面を演じる短い予告編あり。

■データ
マチネ/こまばアゴラ劇場
5・24〜6・3
作・演出/岩井秀人
出演/志賀廣太郎(青年団)、猪股俊明、古館寛治(青年団)、金子岳憲、石橋亜希子(青年団)、島林愛(蜻蛉玉)、星野秀介(田上パル)、永井若葉
照明/松本大介(enjin-light) 音響/荒木まや 舞台監督/田中翼 舞台美術/土岐研一、三浦俊輔  宣伝美術/池田泰幸、西村美博、上野敬(サン・アド) 写真撮影/岩井泉 本番撮影/TRICKSTER FILM 制作/原田瞳(tsumazuki no ishi)