(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「アメリカをやっつける話」劇団チャリT企画

舞台上には、既視感たっぷりのセットが広がってると思ったら、大学の学生会館なんですね。壁には汚れたビラが貼られ、廃品置場から持ってきたのではないかと思われる家具が雑然と置かれている。遥か遠い昔に見た、どこか懐かしい風景だ。
今回のお話の舞台となるアメリカ研究会も、そこに同居するもろもろのサークルのひとつ。季節は春、新入部員の勧誘合戦も佳境だが、そんなことなどどこ吹く風で、Wiiでテニスのゲームに熱中するものたちもいて、部員たちもさまざま。過激派のセクトによるサークル乗っ取りの噂が広がる中、来日するブッシュ大統領が大学にやってくる話もあって、当局から立て看板の撤去が命じられる。それがきっかけでサークル活動のあり方をめぐる対立関係が浮上するが、中庭の桜をめぐって不思議な現象に学生会館全体が襲われて。
衝撃的なニュースで、のほほんとした空気が一瞬にして緊張感に変る幕切れが上手い。この一点で、物語全体がしっかりと締まる絶妙な幕引きだと思う。
ただ、大学生たちの日常を、とりまく空気を含めて再現することに長けてはいるが、いささか目線が低い気がする。彼らにしてみれば等身大なのだろうが、世間一般から眺めれば、部員たちのエゴや人間性をいくら見せられても、所詮はモラトリアムな大学生活の中のもので、真に迫ったものにはなりえない気がしてしまうのだ。
桜をめぐるタイムスリップめいた不思議な現象も、何かドラマティックなものがほしいのは判るけれど、取って付けた感は否めない。学生劇団の壁を越えるにはいくつかの課題があるに違いないが、それを乗り越え、さらに一皮むけてほしい劇団だ。(90分)

■データ
マチネ/王子小劇場
5・17〜5・21
作・演出/楢原 拓 (chari-T)
出演/松本大卒、伊藤伸太朗、内山奈々、高見靖二、冠仁、下中裕子、秋吉孝倫(乞局)、角田ルミ
竹内洋介、熊野善啓、小杉美香、楢原拓、長岡初奈
音楽/YODA Kenichi 舞台監督/甲賀亮 照明/伊藤孝(ART CORE design) 音響/島貫聡 音響操作/樋口亜弓 宣伝美術/BLOCKBUSTER