(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝OZオズ〟ホチキス プレミアム公演 VOL.2

劇団のホームページで過去の公演記録を見ると、97年の旗揚げからしばらくは岐阜や愛知の方面で活躍していたらしい。2003年あたりを境に、東京の劇場へと進出してきたようで、わたしは前回の〝佐々木の船〟(@シアター・モリエール)に続き、今回が二度目のホチキス。
王子小劇場の客席を縦に二分割する花道状の舞台。その両端には、踊り場のような小さなスペースがあって、そこもサブエピソードの重要な舞台となる。舞台床には、黄色いレンガの道がまっすぐに伸びており、今にもドロシーら一行が歩いてきそうな雰囲気だが、そこにひとりのOLが登場。彼女、辿道メグリ(斉藤美和子)は、今日も今日とて朝に寝過ごし、会社に遅刻しそうだと焦っている。しかし、怒りにまかせて携帯を放り投げたせいで珍事が彼女を襲い、異世界へと迷い込んでしまう。
会社の仕事が気にかかって仕方ないメグリは、元の世界へ必死に帰ろうとする。化粧品のセールスに精を出す良い魔女(広瀬愛子)の頼りないアドバイスによれば、オズの都にいる小津教授(野口雄介)がメグリを助けてくれるかもしれないという。ちょっかいを出してくる金の魔女ゴルド(児玉久仁子)と銀の魔男シルバ(加藤敦)をあっさりといなし、なぜか言葉を身につけた愛犬のトト(船戸健太郎)と無能なかかし(山本洋輔)をお供に、彼女は都をめざすが。
銘打たれているプレミアム公演とは、劇団の既存の路線に拘らずに、チャレンジ精神を発揮してみようという企画のようで、いわば番外公演にあたる。今回は、役者の加藤敦が作、演出を担当し、映画でお馴染みのフランク・ボーム原作の大胆な変奏に挑んでいる。そんな劇団の意欲的な取り組みが見事に実を結んだか、〝OZ〟の出来映えは悪くない。
まずいいのは、メグリ役の斉藤美和子の堂々たる立ち姿だ。彼女のちょっと短気だが、溌剌としたキャラクターが、物語をぐいぐい引っぱっていく。OLの生活に追われ、おそらくは日々の生活にも疲弊しているであろう彼女だが、運悪くも異世界へ紛れ込んでしまったという逆境をものともせずに、気丈で、打たれ強いポジティブなヒロインぶりが素敵だ。
彼女を取りまく脇役陣も、個性を感じさせる芝居で、お話を盛りたてていくが、物語の終盤になって明らかにされるボームの原作とシンクロする瞬間が素晴らしい。物語の全体像が一瞬で明らかになるとともに、「やっぱりお家が一番」というキーワードが意味するところが、鮮やかに浮かび上がってくる。
踊り場のようなスペースの中で演じられるビルのエレベーターに閉じ込められてしまった3人の男女のサブエピソードも面白いが、やや本編に絡みきれていないうらみがあるのは惜しまれるところだ。この部分がさらに洗練されれば、本作の完成度はさらに上がっただろう。
ともあれ、(失礼ながら)本公演の〝佐々木の船〟より、出来映えは遥かに素晴らしい。こういう成功を、ぜひとも劇団の大きなステップボードにしてほしいものだと思う。(120分)

■データ
ソワレ/王子小劇場
4・18〜4・21
作・演出/加藤敦
出演/橋本哲臣、小玉久仁子、船戸健太郎、中川智咲子、山本洋輔、広瀬愛子、山崎雅志、村上直子、齋藤美和子、江本和広、西川康太郎(劇団コーヒー牛乳)、野口雄介(神様プロデュース)、加藤 敦
舞台監督/中西隆雄 照明/棚橋悦子 美術/袴田長武(ハカマ団)  映像/上條大輔 衣装/谷野留美子、有藤加奈子 作曲/北方寛丈