(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝媚励〟乞局第12回公演

裏の人間性を嬉々として描く下西啓正率いる乞局は、毎回、その演目のネーミングや当て字に、どことなく不穏な空気がたちこめているのも特徴のひとつ。今回の〝媚励(びれ)〟からも、ほらね、やはり嫌な予感が漂ってくる。
ややレトロだけれども、どことなく品のある洋館。洋館は、指定文化財のようだが、女性限定の下宿人を何人かおいていて、ゲイだといわれる管理人(池田ヒロユキ)が彼女たちの面倒をみている。白を基調とした2階のテラスが舞台で、上手に管理人の部屋、下手は花壇と1階への階段。ある日管理人が下宿人たちの洗濯物を干していると、そこに色々な人がやってきて。
家主である三姉妹(石橋志保、五十嵐操、伊東沙保)と下宿人たち(鈴木享、中島佳子、和田奈保子)、さらには近所の主婦(舘智子)ら癖のある女性たちが、それぞれの思惑とエゴを剥き出しにする負の人間模様が物語の基調になっていて、下宿人たちのボーイフレンドや建物の保存会のメンバーといった男達は愚かだったり、気弱だったりして、彼女たちに翻弄されまくる。
幕切れのちょっと手前に一応クライマックスの修羅場はあるのだが、長女(石橋)と新しい下宿人(中島)の微妙な関係に謎があって、それを解き明かしていく流れが物語の中心にあるといっていいだろう。ま、ちょっと判りにくいところもあるけれど、人間関係の機微を裏側から描いていくような乞局のドラマは、例によって興味深くも不快な域(つまり人が他人に触れてほしくない部分)にまで達していると思う。
下西自らが睡眠障害のカウンセラー役で長女に絡む冒頭のつかみがうまく、ぐいとばかりに物語に引き込まれる。全編を覆う静かなノイズも、意味は不明ながら、不思議な効果をあげている。役者単位でいうと、下宿人役の中島佳子と末妹役の伊東沙保が、「え、別人?」と言いたくなるほど、いつもと違う個性を鮮やかに打ち出していて、強く印象に残った。
修羅場の惨状や、幕間のやけに明るい音楽は、先月のポツドール(〝激情〟の再演)を連想した。これまで意識したことがあまりなかったが、ポツドール乞局の往く道には、どこか交わるところがあるのかもしれない。(105分)※15日まで。

■データ
ソワレ/こまばアゴラ劇場
4・5〜4・15
作・演出/下西啓正
出演/秋吉孝倫、池田ヒロユキ(リュカ.)、下西啓正、竹岡真悟、中川智明、三橋良平、五十嵐操、石橋志保(中野成樹+フランケンズ)、伊東沙保(ひょっとこ乱舞)、鈴木享、舘智子(タテヨコ企画)、中島佳子(無機王)、和田奈保子(公転周期)
舞台美術/袴田長武+鴉屋  照明/吉村愛子(Fantasista?ish.) 音響効果/平井隆史(末広寿司) 演出助手/田中元一(田中兄弟) 舞台監督/青木規夫、松下清永+鴉屋 衣装/西瑞美