(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝紅の舞う丘〟風琴工房code.23

93年旗揚げ、95年ザ・スズナリ進出という実績を誇る風琴工房。個人的なことだが、印象に残っているのは、主宰の詩森ロバのコメントにあった、演劇は観客との間に濃密なコミュニケーションを要求する、という一節。今回の〝紅の舞う丘〟は、わずか六人で起業した化粧品会社が辿る、苦節と紆余曲折の日々を描いている。
事前に、数多くの現場取材をしたというだけあって、業界の肌合いも伝わってくるしっかりとした世界を出現させている。物語も、取引先の倒産による危機や、主人公のダークサイドへの接近(不倫の過去)など、お決まりのパターンを踏まえているとはいえ、ウェルメイドで完成度が高い。
役者たちは、客演も交えて全体には凸凹した感じがあるが、主役の谷本咲子を演じる松岡洋子と、それを支える都築真知子役の大崎由利子のポシティブで溌剌とした佇まいが素敵。彼女らの姿を観て、勇気をかきたてられる女性は多いだろう。会社の起業とともに、舞台が拡がった印象を与える開閉式の舞台装置も、シンプルだが効果的だと思った。
日替わりのゲストは、この日は山の手事情社の倉品淳子。タイトルにある紅は、口紅のことで、本作の重要なモチーフとなっている。それをストレートに表現したちらしもあっぱれだ。(125分)※11日まで。

■データ
マチネ/下北沢ザ・スズナリ
作・演出/詩森ロバ
出演/大崎由利子、江口敦子(燐光群)、永滝元太郎(劇団M.O.P)、浦壁詔一(ポかリン記憶舎)・松岡洋子、笹野鈴々音、宮嶋美子、山ノ井史、浅倉洋介