(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ひばり〟シアターコクーン・オンレパートリー2007

15世紀初頭フランスの田舎町に生まれたジャンヌ・ダルクは、百年戦争下のフランスでイングランドの統治に反旗を翻し、祖国フランスの軍勢を率いて、時の大帝シャルル7世の戴冠を実現させた。〝ひばり〟は、その歴史上のエピソードを、ベケットと同時代のフランスの劇作家ジャン・アヌイが法廷劇として戯曲化したもののようだ。天からのお告げを聞いたというジャンヌ・ダルクの物語は、今でいえば電波系なのかもしれない。
四角い舞台の三方を囲むように、出演者が控えている中、異端審問の裁判が始まる。裁かれるのは、ジャンヌ・ダルク松たか子)。生い立ち、そして天啓を受けた彼女が国王(山崎一)に謁見し、蜂起の仲間を集めるくだりが舞台上で再現されていく。ジャンヌの言葉のひとつひとつにケチをつける検事(磯部勉)と、一方彼女を極刑から救おうとする僧侶のコーション(益岡徹)。さらには、スペインから派遣された異端審問官(壌晴彦)による冷徹な追求、とドラマは次第に緊張感を高めていく。
この芝居におけるジャンヌ・ダルクの役どころは、溌剌とした外見の内側に、実はイノセントとトリックスターの両方の要素を内包するキャラクターという、かなり演じにくいものだと思う。しかし、ステージの中央に、瞳をきらきらと輝かせて立つ松たか子は堂々たるもので、見た目だけでなく、天然と策謀の間で時に観客をも惑わせるほどの役作りで、内面の充実をもうかがわせる。
脇を固めるキャストも充実しており、先に掲げた顔ぶれのほかにも、壌とともに抜群の存在感を誇る橋本さとし(ウォーリック伯爵)や、可憐な小島聖(アニェス役)といった魅力的な役者たちが揃っている。宗教や信仰をめぐる議論によって、ややもするとこの法廷劇は重厚な方向に傾きがちだが、松や脇役陣のフットワークの良さが、最後の最後まで物語のテンポの良さを乱さない。
シャンデリアの蝋燭に火を灯したり、牢獄を光で表現するなどの照明も素晴らしかったが、何より裁判の結果をめぐり、苦悩するジャンヌを待ち受ける運命のクライマックスで、史実の時系列を大胆に逆転させた幕切れが見事。ジャンヌの掲げるフランス国旗のはためきが、なんとも印象的な幕切れだった。(15分休憩を含み210分)

■データ
ソワレ/渋谷シアター・コクーン
2・7〜2・28
・オフィシャルサプライヤーシリーズVOL.373
作/ジャン・アヌイ (翻訳:岩切正一郎) 演出/蜷川幸雄
出演/松たか子益岡徹橋本さとし山崎一、壤晴彦、小島聖磯部勉月影瞳品川徹、他