(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝嘘を数える〟徒花*冬公演

〝徒花*〟と書いて〝とかだん〟と読ませるようだ。わたしは、主宰の甲斐博和がよそに客演してるのを見かけて(どこだったかは失念、すまぬ)、なぜか気になり、たどり着いた。今回の会場は、JR荻窪駅にほど近い古い旅館だが、ここを使うのは前回公演に引き続いてのことらしい。
旅館の二間続きの和室に泊まっている若い男女。といっても、ふたりは姉と弟で、地元の商店街の福引でディズニーランド御招待のペアチケットが当たり、上京したらしい。今日は一日別行動だった二人だが、明日のディズニーランドをひかえ、ふたりの間ではあれやこれやと話が盛り上がる。
他愛のない話題が、やがてお互いの話に及び、どうやら姉は近く結婚の予定があるらしいことが判ってくる。一方、弟は家を継ぐことになっているらしい。ふたりの遠慮のないやりとりの中から、姉は弟を、そして弟は姉を慮っていることが伝わってくる。血の絆というものの結びつきをナチュラルに描いて、実に濃やかな雰囲気が伝わってくる。
ふたりの話は、やがて家族の思い出話を経て、微妙な領域へと踏み込んでいくのだが、個人的にはいたく感心させられたのは、姉弟愛という領域を逸脱しそうになる一瞬を見事に描いてみせたところだ。姉と弟の関係を、性的視点から眺める勇気を買いたいし、人の一生に一度あるかないかの人生のひとコマを切り取ってみせることに成功していると思う。
当初午後4時開演という予定が、一時間遅らせて5時からとなった。その成果だろう、廊下を挟んだ上手側は旅館の庭で、次第に日が暮れていく様子が、お芝居にも効果的に反映されている。ユニークなロケーションを生かしたいい演出だったと思う。

■データ
マチネ/荻窪旅館西郊(百合の間)
2・17〜2・18、2・24〜2・25
作・演出/甲斐博和
出演/円谷久美子、佐藤祐香、甲斐博和
照明設計/由利優樹