(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝幸せのタネ〟らくだ工務店第12回公演

らくだ工務店は1999年の旗揚げで、今回の〝幸せのタネ〟が第12回目の公演となる。そのどこかほのぼのとした劇団のネーミングに惹かれて、観てみることに。
家庭教師の男(濱田龍司)が、聾唖者の妹(江幡朋子)と妻(吉田麻紀子)の三人で暮らす家庭のお茶の間。彼は元高校教師で、教え子と結婚し、学校を去った過去がある。今日は、隣にある老人福祉センターのイベントに出演を依頼された妻の兄(野本光一郎)がやってくる日。彼は、テレビにも出たことのあるマジシャンという触れ込みだが、実はそれほど売れておらず、生活に困っているのか、妻の家に数日の居候を頼み込む。
一方、夫の妹はつい先日まで外で働いていたが、急に引き篭ってしまっていた。給料を届けがてら、彼女を心配して同僚が訪ねてくるが、彼女は会おうともしない。同僚は、その後もやってくるのだが、どうやらふたりの間には何か関係があるらしくて。
人生にタネや仕掛けがあるか?そんな命題をめぐる科白が、幾度となく行く交う。これは面白いテーマだし、入り口としては悪くないと思う。しかし、この劇中でそれが行きつく先はというと、それがどうもおぼつかない。
終盤間近で、引き篭っていた妹をめぐり衝撃的な出来事が起きるが、幕が降りてみると、それとてたまたま不幸な事件があったにしか過ぎないように見えてしまう。これでは、ただ単に物語に劇的な展開が欲しかっただけでは、といわれてもしょうがないだろう。さらに、それが幕切れの場面にどう繋がるのかも、疑問だった。
ただ、日常風景を切り取ったような場面は達者で、意味のあるなしにかかわらず、そういうシーンは、たとえ長くてもだれることなく面白い。劇的なことに寄りかかろうとする姿勢が、そういうこの劇団の持ち味を殺しているように思えてもったいない。(90分)

■データ
2006年12月1日ソワレ/下北沢「劇」小劇場
11・28〜12・3
作/演出:石曽根有也
出演/野本光一郎(ONEOR8)、吉田麻起子(双数姉妹)、濱田 龍司(ペテカン)、岡本考史(東京タンバリン)、ますだいっこう、江幡朋子、今村裕次郎、瓜田尚美、石曽根有也、岩松高史