(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝物々交換〟北京蝶々第7回公演

バタフライ効果からその名をとった北京蝶々は、早稲田大学演劇研究会の現役アンサンブルで、2003年に旗揚げしている。劇研の先輩にあたる双数姉妹の舞台に、帯金ゆかりというやたら元気な女の子が客演しているのを見かけて、しりとり式に彼女の所属劇団も観てみたくなったのがきっかけ。前回公演の〝コトバのサクラ〟では、近未来のコミュニテーションのあり方をテーマに、ユニークな切り口を見せてくれて、個人的には期待の若手劇団のひとつだ。
今回も舞台は近未来。電子マネーの普及が著しく進み、街中で現金はほとんど流通していない。お金を払うときは、カードと自分の指で認証を受けなければならず、何かあって口座支払いが停止になると、たちまちのうちに文無し同然になってしまうという世の中。
物語のベクトルはいくつかあって、沈みかけている南の島を再生するビジネス、ホームレスを働き手としてその島に送ろうとするボランティアの話、家出少女のエピソードなど。その中心にいるのは、露天に粗末な品々を並べて売っている男テツ(垣内勇輝)で、借金が返せないならコレを売れと、ヤクザな男(三浦英幸)から怪しげな品物を押し付けられる。それは、人工とも本物とも判らない人間の指だった。それで認証を受ければ、他人の口座でいくらでも買い物が出来るという。
物語は、元アイドル(帯金ゆかり)やホームレス(赤津光生)、南の島から来た青年(満間昂平)などを巻き込んで錯綜していくが、電子マネーというシステムの不自由さが浮き彫りにされていき、物々交換というプリミティブだが人間的な手段が浮上してくる。このあたりは、学園祭に実際に物々交換のイベントを行ったというフィールドワークの成果が大きく現れているといっていいだろう。
この一種の逆転の発想に物語を引っぱっていくのはテツという人物で、若さに似合わない旧弊な価値観の持ち主なのだが、物語のあちこちで発生した課題を物々交換という手段で次々と解決していく。終盤のスピーディな展開は快感で、まるでジグソーパズルのピースが次々本来の場所に埋まっていくようなカタルシスがある。
短い上演時間からも判るように、贅肉のないストレートな芝居で、その率直さが魅力でもあるのだが、欲をいえばもう少し遊びの要素が入ってきてもいいような気がする。役者たちも充実しており、その贅肉がテーマをさらにひきたたせるレベルまではさほど遠くないように思えるのだが。(70分)

■データ
2006年11月25日マチネ/早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ
11・22〜11・27
作・演出/大塩哲史
出演/赤津光生、帯金ゆかり、鈴木麻美、三浦英幸、森田祐吏、垣内勇輝、森山春彦、岡安慶子、鈴木淳子、満間昂平、片岡選己、白井妙美、内藤量平、原田浩司
照明/伊藤孝(ARTCORE design) 音響/岡田 悠(soundcube) 舞台監督/藤田有紀彦 舞台美術/大塩哲史