(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝シュナイダー〟elePHANTMoon

クリエイティブチームを名乗るelePHANTMoonだが、今回の舞台を観る限りは普通の劇団や演劇ユニットによるものと殆ど違いはない。あらむしという劇団が前身にあったようだが、詳しいことは判らない。現在の名前になってからは、今回の〝シュナイダー〟が3回目の公演にあたる。
ある夜、明かりの消えた喫茶店で、店を訪ねてきた見知らぬ男(石橋征太郎)を女主人(板倉奈津子)が出迎えるシーンがプロローグ。物語が始まると、どうやら男は店で働くことになったようで、その喫茶店を女主人とともに切り盛りしている。さほど繁盛しているようには見えないが、近所には何やらTVが取材にくるような噂のスポットがあるようで、それがお目当ての客もいるようだ。また、巡回の警察官(永山智啓)も立ち寄るが、どうやら彼は女主人の幼馴染みらしい。
どこにでもあるような喫茶店の店内で話が進められていくが、片足を引き摺る女主人がこっそりと無言電話をかけたり、時に見せる落ち着かない様子などから、どことなく物語がはらむ不穏な空気は観客にも伝わってくる。噂のスポット(おそらくは森)が自殺の名所であること、女主人の夫が数ヶ月前から行方不明となっていること、などが次第に明らかになり、店には夫の愛人を名乗る女性が訪ねてきて、居直ったような態度で女主人に絡んだりする。
噂のスポット目当てにビデオカメラを片手にやってくる映像クリエーターをきどる学生たち(酒巻誉洋と墨井鯨子)や、自殺志願の青年(尾本貴史)らに混ざって、喫茶店にはやがて、交通事故で女主人に怪我を負わせた男(竹岡慎吾)や、息子を異常者に殺された父親(鱒田エンキチ)といった客がやってきて、緊張感は俄かに高まっていく。
しかし、この思わせぶりな展開を、罪とそのあがないといったシリアスなテーマに直結させるのは早計というもので、やがて終盤で見せる急展開で急転直下、物語はチープなスリラー、ショッカーの世界へと突入していく。そのあたりを読み違えると、この物語は着地点を誤ったシリアス劇という評価を与えられかねない。
しかし計算違いがあるとすれば、むしろややもたつきのある前半だろう。最初と最後でここまで違う印象のドラマも珍しいが、ショッキングなシーンを次々に観客につきつける(ホラー映画そこのけの被りものまでが登場する)幕切れに向けての展開は、確信的なものに違いないと思うのだが、どうか。

■データ
2006年11月25日ソワレ/王子小劇場
佐藤佐吉演劇祭参加作品
脚本・演出/マキタカズオミ
出演/永山智啓、酒巻誉洋、坂倉奈津子、竹岡真悟、尾本貴史、玉江仁一、墨井鯨子、石橋征太郎、鱒田エンキチ、渡辺美弥子(電動夏子安置システム)
舞台美術/福田暢秀(F.A.T STUDIO) 舞台監督/伊藤智史 照明/若林恒美 音響/上野雅(Sound Cube)衣装/仲ひとみ、三井さやか