(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝カオス〟トニー・ギグリオ監督(2005年・アメリカ)

ガイ・リッチーの〝ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ〟に出ていたジェイスン・ステイサム主演の犯罪映画と聞けば、気になって当然というところ。主人公は、休職中の刑事コナーズ(ジェイスン・ステイサム)である。人質をとって逃走した犯人を、相棒の刑事とともにパール橋の上で追いつめたコナーズだったが、謝って人質を死なせてしまう。その責任から相棒は解職、コナーズは休職の処分の憂き目にあっているというシチュエーションだ。
シアトルで黒ずくめの武装集団に銀行が襲われた。犯人たちは人質をとって籠城し、リーダー(ウェズリー・スナイプス)は、なぜか休職中のコナーズ刑事を交渉の相手に指名する。コナーズの上司ジェンキンス警部(ヘンリー・ツェニー)は、やむなく彼の休職を解き、現場で陣頭指揮をとらせる。リーダーは、混沌(カオス)の中にも秩序がある、と挑発するようなメッセージを送ってくるが、こう着状態の中、警備システムを解除するために電源を落とし、コナーズはスワットの突入を決断する。しかし、犯人たちは意表をついて正面からの脱出を図り、人質に紛れてまんまと逃走に成功する。不思議なことに銀行内の金は、手つかずのままだった。
コナーズは新人のデッカー刑事(ライアン・フィリップ)と組まされるが、実はデッカーは監視役だった。デッカーや元恋人の女刑事ギャロウェー(ジャスティン・ワデル)らとともに、コナーズは市内に散り散りになった犯人たちを捜し始める。TVカメラが捕らえた映像から、前科のある男が強盗犯として逮捕されるが、彼の所持金の中から警察の証拠保管室にあるべき紙幣が発見され、署内に強盗事件の協力者がいたことが疑われる。そしてその直後、汚職警官のカールが自宅で死体になって発見された。現場には、コナーズにパール橋事件の罪は償わせる、という恨みを込めたメッセージがあった。
銀行襲撃のメンバーたちが集合するという情報を手に入れ、張り込みをしていたコナーズらだったが、肝心のリーダーは現れず、犯人たちと格闘するうちに、家はコナーズを巻き込んで爆発し、全焼する。リーダーによって、集合場所の家には爆弾を仕掛けていたのだ。残されたデッカー刑事は、銀行強盗の意表をついた強奪の手口を解き明かし、強盗事件の際にリーダーが口にしたカオスをめぐるメッセージを手がかりに事件の黒幕を突き止めるが。
まず、タイトルにもなっているカオス理論だが、どうも内容に巧く結びついているとは言い難い。混沌とした状況の中にも、手がかりというのはあるものだ、というテーマは理解できるが、そもそもそれと犯人の意図がどう結びつくのか、判然としないところがある。
さらに、中盤以降、いくつかのサプライズが次々観客に提示されるが、意表はつかれるものの、その時点で物語の着地点を見極めることができない観客に、決定的なカタルシスは訪れない。それが結局、勘のいい観客ならば見当がついてしまうであろうクライマックスでの種明かしの衝撃をも薄めている印象がある。
犯行手口の面白さやフーダニットの興味など、複雑な内容を盛り込んだ犯罪映画として見ごたえはあるが、切れという点ではいまひとつ。映画の出来は、作中に仕掛けられたサプライズの量に必ずしも比例するとは限らない、という例だろう。[★★½]

(以下ネタばれ)
ウェズリー・スナイプス演じる銀行強盗のリーダーは、バール橋事件で解職になった元同僚だった。人質を誤って射殺したのは、彼だった。元同僚とコナーズはグルとなって、銀行の金を奪った。強奪の方法は、銀行のシステムに忍ばせたコンピュータ・ウィルスで、少額を多数の口座から送金させるというものだった。少額の金の移動は銀行側のチェックもかからない、という盲点をついたものだった。
デッカー刑事は、銀行強盗のカラクリを見破り、最後の最後にコナーズが黒幕だということを突き止めるが、時既に遅し。必死に彼の姿を追い求めるデッカーを横目に、コナーズは涼しい顔で国外へ高飛びしてしまう。