(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝透明人間〟劇団唐組第38回公演

紅テントの芝居は、本当に久しぶり。知ってる役者はもうほとんどいないが、やっぱり懐かしい。会場の鬼子母神境内につくと、若い男女を中心に、300人ほどが詰めかけているのを見て、人気いまだ衰えずの感を強くした。三鷹の森ジブリ美術館横原っぱの公演(6公演)のあとを受けた3公演の千秋楽だ。
保健所の職員の田口(久保井研)が場末の呑み屋を訪ねたのは、狂犬病の疑いがあるトキジローという犬の飼い主に用があったのことだった。飼い主の合田(鳥山昌克)は、かつての友人の息子の辻(稲荷卓央)に、トキジローの散歩を任せていた。しかし、その途中、野球少年(十貫寺梅軒)が噛まれる事件が発生し、母親(大美穂)の抗議で保健所が動かなければならない事態となったのだ。しかし、少年のマサヤを噛んだのは、トキジローではなく、辻だった。呑み屋の2階で、辻という男をめぐる数奇な運命のドラマが繰り広げられていく。
濃厚なロマンティシズムとアングラの精神を久々に堪能した。16年前だったという初演は観ていないが(その後、若手公演の演目にもなった)、唐十郎らしさが充満する作品だ。毒とロマンが横溢する世界を、若手の役者たちが自分たちの世界として演じていたのが、印象に残った。そうか、この世界も後継者が育っていたのか、というちょっとした嬉しい驚きを感じた。
当の唐は、白川という女教師を演じ、出番も多いが、状況劇場時代の朋友十貫寺梅軒を招いていることもあって、客演を立てる意味でやや押さえ気味。でも、十貫寺との掛け合いなど、いかにも楽しそうで、観客席の雰囲気も、大いに和んでいた。従来のイメージを刷新する要素は見当たらないが、主演の稲荷卓央やジゴロ役の丸山厚人の達者さや、藤井由紀と赤松由美という女優陣の可憐さは、個人的に記憶に留めておきたい。(休憩10分を含めて130分)

■データ
2006年10月29日マチネ/雑司が谷鬼子母神境内紅テント
10・27〜10・29(鬼子母神
作・演出/唐十郎
出演/唐十郎、十貫寺梅軒、鳥山昌克、久保井研、辻孝彦、稲荷卓央、藤井由紀、赤松由美、丸山厚人、多田亜由美、高木宏、岡田悟一、気田睦、野村千絵、他