(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝さようなら僕の小さな名声〟五反田団

五反田団は、1997年に前田司郎が自らの作を演出する劇団として立ち上げたもので、その私小説的とも、脱力系とも言われる舞台に定評がある。地味ながら、味のある舞台を、わたしは一昨年の企画公演「ニセS高原から」の五反田団バージョン(前田司郎演出)で体験しているが、五反田団としての芝居を観るのは今回が初めて。
アパートの一室と思われる自宅で、恋人とうだうだする主人公の前田司郎。蒲団にくるまり、図鑑のようなものを眺めながら、ふたりは蛇の話をしている。雑誌の取材を受けるために、待ち合わせ場所に出向いた主人公は、演劇雑誌の女性記者からの取材を受けるが、なぜかけちょんけちょんにやっつけられてしまう。そのインタビューで口をすべらしたことから、前田は劇団員を伴い、貧しい人々が暮らす某国へ旅立つことに。
岸田戯曲賞を受賞した劇作家が、名声を浴びるどころか、マスコミからは散々な目にあわされ、ついには地獄巡りのような旅に出るというお話で、まさに前田司郎その人の等身大の物語である。受賞は逸しているが、「キャベツの類」で岸田賞にノミネートされた経験があるし、ここのところの五反田団に対する評価の高まりや、文学方面での活動(「恋愛の解体と北区の滅亡」が三島由紀夫賞にノミネート)など、脚光や名声を浴びる機会が増えている本人が、自らを笑う自嘲の色合いが強い。
名声を浴びる自分への鋭いつっこみが、軽やかではあるがシビアな笑いを誘う。成功者が陥るかっこ悪さを追求する姿勢は、半端ではなく、自虐的になりながらも、終始客観性を失わない。自分の世界に終始する物語は、ややもすると私小説的な閉塞感に捕らわれるものだが、それと無縁なところが良いと思う。
蛇に呑み込まれる世界というモチーフが出てきて、それがクライマックスに繋がっていくのだが、そのあたりはもっと物語と絡める余地があるような気がした。ただ、終盤、死者が次々甦ってくる温い展開は、そこはかとない暖かさがあって買い。やや唐突な感じがしないではないが、胎内回帰を連想させる幕切れも、心地よく物語をしめくくっていると思った。(100分)

■データ
2006年10月27日ソワレ/こまばアゴラ劇場
10・27〜11・5
作・演出/前田司郎
出演/前田司郎、安倍健太郎(青年団)、小河原康二(青年団)、立蔵葉子(青年団)、坊薗初菜(カムカムミニキーナ)、宮部純子/後藤飛鳥、中川幸子、西田麻耶、望月志津子
照明/前田司郎 制作/榎戸源胤 塩田友克 尾原綾