(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝My Legendary Girlfriend〟smartball

smartballは、早稲田演劇倶楽部出身の名執健太郎が作・演出・主宰をつとめる演劇ユニットで、HPには所属として彼と女優の小倉ちひろの名がある。二人とも〝愛の渦〟や〝夢の城〟への出演経験があったり、公演ちらしに三浦大輔がコメントを寄せていたりしていて、ポツドール直系という印象が強い。
インターネットを利用したインチキの出会い系サイトを運営する会社。そこで深夜に働くアルバイトの青年が事務所に出社すると、社員はひとりもおらず、そこには見知らぬ女性(原田優理子)が。彼女は、青年からこの会社の社長に関する情報をあれこれ聞き出し、出て行く。やがてやってきた、副社長の久米川(白神美央)や大社長と呼ばれる(米村亮太朗)の話から、社長(アントニオ本多)が行方不明になっていることが判る。その頃、社長は阿佐ヶ谷のマンションで若い愛人のゆかり(石澤彩美)と時間を過ごしていた。一方、社長の片腕の岡崎(岩瀬亮)は、社長の上海への高飛びを中国人の愛人淋淋(小倉ちひろ)に頼み込んでいた。
主宰の名執がノワールと語っているように、テーマは破滅していく人間たちといっていいだろうか。客入れのBGMからして、屈折感のあるハードロックを大音響で流していて、よそとの差別化が感じられる。わたしは、ずいぶん前からHPで秋にこの公演があることを知って、冒険的な舞台が観れるのではと、実は非常に楽しみにしていた。
インチキサイトの経営者たちを脅かすのは、原田が演じる草壁という警視庁の女警察官である。この女、やり手であるばかりでなく、サディストで変態というとんでもない設定なのだが、キャスティングや演出も含めて、計算違いがある。原田演じる草壁が、一向にそういう人物に見えないことだ。
役者についていえば、大社長役を演じる米村の味のある演技などもあるが、全体に未熟に感じるのは、脚本に未整理な部分があるからではないだろうか。物語もわかり難い部分があるし、単純な物語のわりには、全体がやや長すぎる印象がある。それから、暗転の最中も台詞が続く部分が何度もあって、その演出上の意図も不明だった。
舞台の上には、正面やや上段と上手、下手の3つの場面がつくられていて、大久保にある事務所、阿佐ヶ谷にあるマンションの一室、中華料理店という場面が転換させながら、物語が進行していく。厳しい条件下で3場面をしつらえた舞台装置には拍手を贈りたいが、しかし、王子小劇場の狭さでは座席が上手、下手のどちら側かに寄っていると、その反対側のシーンが非常に観にくいのもネック。(特に2、3列目)
と、厳しい感想ばかりになったが、それは先に書いたように期待値が高いせいでもある。テーマや演出の野心的なところは大いに買えるし、時に生まれる緊張感や、ファンタジーをめぐるディスカッションなど、ここはと釘付けになる場面もいくつかあった。これから大きく化ける可能性は十分あると思う。狙いはポツドールと微妙に異なるようだが、その先達に追いつき、追い越すつもりで公演を重ねていってほしい。(120分)

■データ
2006.10.24マチネ・王子小劇場
10・20〜10・24
佐藤佐吉演劇祭参加作品
作・演出/名執健太郎
出演/小倉ちひろ、アントニオ本多、白神美央、原田優理子(トリのマーク(通称))、石澤彩美、岩瀬亮、松本慎平、荒木拓、米村亮太朗 (ポツドール)
美術/松本翠(翡翠空間) 照明/伊藤孝(ART CORE design) 、音響/中村嘉宏(atSound) 音響操作/和田匡史 小道具・衣装/大橋路代(パワープラトン) 舞台監督/西廣奏