(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝津田沼〟THE SHAMPOO HAT 第20回公演

THE SHAMPOO HATの出自は、青山のショーレストランを拠点にしていたパフォーマンス集団と聞いている。初期はシチュエーション・コメディをやったりしていたということだが、〝事件〟と〝恋の片道切符〟を観たわたしの印象としては、赤堀雅秋の演出のもと、しっかりとした芝居らしい芝居を見せてくれる劇団という信頼感がある。1996年の旗揚げだから今年で10周年、公演も今回の〝津田沼〟でちょうど20回を数える。
高校二年の男子、哲也(日比大介)が弟とのふたり暮らしをしているアパートの一室。といっても、両親は隣に住んでいる。その日、ついにかなった憧れの同級生の恵美子(滝沢恵)とのデートのために、哲也は友人の栗田(多門勝)に髪をセットしてもらっていた。そこに、もうひとりの友人伊東(黒田大輔)が加わり、あーでもない、こーでもないと賑やかにやりあう3人組。しかし、不良の先輩丸山(野中隆光)が中学生を引き連れて、遊びにきたことから、おかしなことになっていく。さらには、丸山の兄貴分らしいヤクザ風情の男(福田暢秀)が登場し、恵美子(滝沢恵)を巻き込んで、事態はとんでもない方向に。
近郊都市の津田沼にあるアパートの一室、そこにたむろする高校生という多感な年代の少年たち。現在と10年前を並行して描くという設定もあって、牧歌的でノスタルジックな空気が漂う舞台だ。物語は先に紹介したシチュエーションと、その10年後(哲也は恵美子と結婚している)を、同じアパートの一室という舞台は固定したまま行き来する。
3人の高校生たちの関係であるとか、彼らのやりとりの微妙なニュアンスが、そうそうこういう感じだった、と思わせる細部にわたり、ゆきとどいたものを感じる。10年前の物語の中では、あれこれ事態が紛糾し、劇的な事件が展開していくのだが、たとえそれがなくてもこの芝居は十分成り立つんじゃないか、と思わせる役者たちの充実ぶりは、なんとも頼もしい限りだ。
赤堀雅秋(10年後の場面に、自治会副会長の役で登場する)のイヤな役づくりはまさに芸術的で、10年前のエピソードの不気味さにもその持ち味が色濃く現れている。それでいてキワモノの臭いがほとんど感じられないのは、やはり赤堀の醸しだすイヤラシさが、とってつけたものではなく、(ちょっと大袈裟だが)しっかりとしたドラマツルギーのようなものに立脚しているからだろう。テーマでもある煙草の吸い方に、ひとりひとりの個性が滲み出ている、さりげないきめの細かさも良かった。(100分)

■データ
2006.10.21ソワレ/下北沢ザ・スズナリ
10・13〜10・22
作・演出/赤堀雅秋
出演/日比大介、児玉貴志、多門勝、野中隆光、福田暢秀、黒田大輔、滝沢恵、赤堀雅秋
舞台監督/高橋大輔+至福団  照明/杉本公亮  音響/田上篤志(atSound)  舞台美術/福田暢秀  舞台製作/F.A.T STUDIO