(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝無外流、津川吾郎〟ハイバイプレゼンツ

劇団のホームページによれば、ハイバイは多摩地区を中心にお洒落な口語劇を展開している劇団とのこと。ここでいう口語劇とは、平田オリザの提唱する現代口語演劇のことだろうか。今回の公演〝無外流、津川吾郎〟は、先にプレビュー公演を行い、アンケートの結果を一部軌道修正を行った上での本公演である。
定年退職で暇な時間ができた内田(今井勝法)は、将棋をさしにいった公民館で津川(餅松亮)という老人に目をとめる。将棋の戦法から津川の中に悟りの境地を見出した内田は、憧れに近い気持ちで津川に近づく。内田は津川と入った喫茶店で、喧嘩するカップル(チャン・リーメイと浜田信也)の男が女に手をあげるのを見て、津川を男にけしかけるが、男から逆襲されてしまう。悔しさに耐えかねた内田は、津川を伴って男のところに乗り込むが、そこはある劇団の稽古場で、役者をやっている息子の信治(金子岳憲)がいて、親子は互いにびっくりする。
通う会社もなくなり、家庭も居心地が悪い。そんな初老の男が、自分の居場所を捜す物語だが、老人の役を演じる役者たちが、皺を乱暴にペイントしたメイクで登場し、観客を笑わせる。老人の感覚のずれをネタに仕掛けてくる笑いは、観客の反応も悪くない。
しかし、中盤、向いの家に住むダイゴ君(松本裕亮)という少年が、(おそらくは)心身障害者として登場し、内田の一家を恐るべき事態に陥れる場面がある。このワンシーンは、その状況の曖昧さもあって、非常に怖いのだが、どうも後味がよくない。そこはかとない差別意識のようなものが、なんとも自分の中にストンと落ちない不快さがあるのだ。これでいいのか、という一種の問いかけのようなものが、心の中に残ってしまう。
ハイバイとしては、そういった差別感覚の効果をうまく計算しているのだろうが(事実、老人を笑う場面では、それが成功している)、ダイゴ君の扱いについては誤算があるのではないか。そういうものの毒が馴染むところまで物語の世界を作りこんでいないように思うし、見終えたあとに不快な滓のようなものが残ってしまったのは、そのへんに原因がある。偽善的になる必要はないのだが、確信犯であるならば、もっともっと深い覚悟が必要なように思える。
役者たちにも恵まれ、ギャグの切れやテンポの良さもなかなかのものがあるので、次も観てみたい気はするのだが。

■データ
2006.10.14マチネ/渋谷ギャラリー・ルデコ
10・5〜10・15
作・演出/岩井秀人
出演/金子岳憲、餅松亮、今井勝法(幹生)、チャン・リーメイ、浜田信也(イキウメ)、永井若葉、松本裕亮、三浦俊輔、田中伸一(開店花火) 北村延子(蜻蛉玉) 
照明/松本大介(enjin light)、照明オペ/崎野怜子、美術/土岐研一、宣伝美術/池田泰幸、西村美博(サン・アド)、制作/大久保亜美 (mon)