(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ワルツ−隣の男−〟東京タンバリン(Mitaka 〝Next〟 Selection 7th)

東京タンバリンは、青年団出身で女優でもある劇作家の高井浩子が主宰する劇団で、1995年の旗揚げ以来、コンスタントに活動を続けている。わたしは、所属の役者さんの客演をよその芝居で観たことはあるけれど、本公演は初めて。三鷹市芸術文化センター主催の Mitaka Next Selection 7th と銘打ったイベントで、それに参加する3劇団(他に宝船と明日図鑑)の先陣を切って登場、ユニークな形で公演を行っている。
ユニークといったのは、会場のホールを2つにシェアして、同時に2つの芝居を上演するという公演形態のことで、そのそれぞれの芝居は、マンションの隣同士の部屋を舞台にしていて、一部、登場人物が行き交ったりもする。同じ会場で、ふたつの芝居をパラレルに上演するというのは、あまり例がない面白い試みではないかと思うが、どうか。
というわけで、まずは、〝ワルツ-隣の男-〟を観る。あるマンションの薄暗い一室。自分はアホだと呟くサラリーマンとおぼしき若い男性がいる。やがて音楽が入り、暗転すると、同じマンションの部屋に若いカップルの亮(山田伊久磨)と聡美(皆戸麻衣)が楽しそうに話している。部屋にある旅行のパンフレットは新婚旅行のためのもので、彼らは婚約しているとおぼしい。その日はバレンタインの晩で、聡美は亮にマフラーをプレゼントする。それを嬉しそうに首に巻く亮。そこに、来客。高校時代からの友人で、演劇をやっている石橋(木下政治)が訪ねてくる。しばらく泊めてくれるように頼み込んだ石橋が居候をきめこむと、亮の部屋には劇団関係の友人たち(田中里枝、瓜生和成)が頻繁に出入りするようになり、やがて亮と聡美の間に不協和音が響き始める。そして、母親の浴衣をめぐって行き違った二人の関係は、ついに破局を迎えてしてしまう。
とまぁ、なんともありふれた内容で、作者の狙いがさっぱり見えてこないもどかしさが先に来る。結婚を目前に控えた男女が、母親や友人によってその仲を裂かれるというのは、現実にいくらでもあるパターンだけに、そのままではフィクションとしての力をもちにくい。おまけに、終盤、役者たちが役どころをズラして演じるくだりがあり、意味がなく、おまけに混乱するだけの演出のように思えて、理解に苦しんだ。(実はよく判らず、それを確認するために、観終えたあとで台本を購入した)
会場(セット?)の関係か、音響がいまひとつで、役者の台詞が一部聞き取りづらいのも困った。ただ、壁の向こう側から隣の芝居の声や音が聞こえてくるのが、やけにリアル。なんだか賑やかで楽しそうなので、終盤はそちらの方に気持ちが行ってしまったが、これはこれでこの芝居のひとつの狙いかもしれない。
しかし、〝ワルツ-隣の男-〟のいくつかの疑問は、もう一本の〝立待月-隣の女-〟を観て、氷解するのだった。
以下〝立待月〟につづく。(100分)

■データ
2006年9月9日マチネ/三鷹市芸術文化センター星のホール
9・8〜9・18