(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝おやすみ、おじさん〟劇団桃唄309

東京をホームグラウンドにする6劇団がこぞって京都で出張公演を行った今年の夏のTOKYOSCAPEだけれど、そこからの凱旋公演という形になった桃唄309の〝おやすみ、おじさん〟。この作品は、2003年が初演で、今回はその再演。1987年に旗揚げというキャリアのある劇団にとっては比較的新しい演目なのだが、初演の翌年には〝おやすみ、おじさん2〟が早々と上演されており、また3が実現する可能性を主宰がほのめかしていることなども考え合わせると、この劇団の代表作といってもいいかもしれない。
母親(山口袖香)とふたり暮らしの中学生、友貴(楠木朝子)は、ここのところ不思議な夢を見ていた。奇妙な装束の男(吉田晩秋)が枕元に立ち、何かをしきりに教えようとしているのだ。毎朝、母親に起こされると夢は中断してしまうが、夜床につけば、まるで連続ドラマのように夢は続いた。
学校の友人たちに興味がもてない友貴だが、近所の受験生繁之(佐藤達)とはなぜか気が合い、放課後は彼の家に入りびたっていた。あるとき、繁之から彼のお姉さん(藤本昌子)が近所の神社で不審な人物を見かけたという話を聞かされる。町の真ん中を道路が通り、その道沿いにさびれかけた商店街があるこの町では、最近交通事故など、ちょっとした事件がよく起きており、町中をうろつく、黒いトレンチコートのよそ者(バビィ)も目撃されていた。この街でクリーニング屋を営む正治(鈴木ゆきを)と慎子(にうさとみ)の家で起きていた奇妙な現象もそのひとつだが、なぜか夫婦はそれに気づいていない様子だ。そんな折、友貴の家に、久方ぶりに叔父さん(坂本和彦)がやってくる。
〝さよなら、おじさん〟は、主人公の親子や町の人々の平凡な日常に忍び寄る不可解な事件を描いた現代の怪談ともいうべき物語だ。実は〝現代の〟というところがミソで、陰陽師や妖怪が跋扈するクラシカルな怪談を、サスペンスフルな都市伝説風の物語に仕立て上げている。その現代性は、都市計画にともなう神社の移転や、商店街の復興計画を背景にしたテーマの持つ社会性に負うところが大きい。
もうひとつは、その展開が緊張感を孕んだスピード感あふれるものであることから来るのだろう。その秘訣は、この劇団独自の手法であるISIS(自立不能舞台装置システム)で、めまぐるしいばかりの場面転換やスピード感あるれる役者の動きを、最大限効果的に見せるという成果をあげている。
断片的に散りばめられた情報から、やがてひとつの絵柄を浮かび上がらせるというこの劇団お得意の展開は、この作品でも健在だ。また、主人公の友貴が、繁之や謎の少年(小林さくら)と心を通わせる場面の暖かさが、やがてくる切ない別れのやるせなさを際立たせる。役者たちは総じて達者だが、個人的には、にうさとみと佐藤達のいきいきとした姿に強い印象が残った。

■データ
2006年9月6日ソワレ/中野ザ・ポケット
9・6〜9・10