(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝トリアージ〟双数姉妹

タイトルの〝トリアージ〟とは、緊急事態下において病人やけが人を救出し、ケアする優先順位のことだ。生存者数を最大にすることを目的とした原理であり、軽傷者や生存の見込みのない重傷者の治療を拒否するという非情な側面もある。
幕開き、惨事(それが何かは、一応伏せられている)が起きた現場の飲食店に駆けつけたふたりの救急隊員(野口かおる、柏原直人)が、従業員とおぼしき負傷者(五味裕司)を搬送しようとする。しかし、さらにふたりの負傷者(佐藤拓之、小林至)を発見し、医療本部に問い合わせをするが、病院は手一杯で、あとひとりしか受け容れてもらえそうにない。そのあたりで、観客はここが異国の地で、負傷者の中には救急隊員らと言語の壁があり、コミュニケーションをとれない者もいることが判ってくる。負傷者たちの話を聞き、誰を救出すべきか迷った救急隊員は、その判断を負傷者たちの話に委ねることにする。
双数姉妹の新作は、南の島を舞台にしたリゾート開発をめぐる日本人と現地人たちの物語である。それぞれの言語や価値観の違いから、双方はやがて訪れるカタストロフに向けて、すれ違いを重ねていく。テロの危機を内包した南国の楽園を舞台に、利権に目がくらみ融資を得るために接待に奔走する日本人の姿を、袂を別った兄弟の葛藤、レストラン支配人と現地人との恋などを織り込みながら描いている。
とまぁ、ここのところ、一作ごとに落ち着きを増している彼らではあるが、今回も二つの時制を行き来する手法をとりながらも、オーソドックスなドラマ展開を前面に押し出している。これはこれで、旗揚げから16年が経過し、さまざまな苦難を乗り越えてきた劇団が到達したひとつの境地なのだろうが、大胆さと意外性に代表される進取の精神をひとつの武器としてきた劇研出身の劇団が落ち着く場所としては、ちょっと寂しく思えるのも、またわがままな観客にとっては正直なところだ。随所でミュージカル仕立てになっているのも、あまり成功しているとは言いがたい。歌が下手だとは思わないが、会場全体をその世界に巻き込むには、まだまだ力不足だと思う。冒頭の緊張感を、中盤の人間ドラマで薄めてしまうような構成も、工夫が必要だろう。
しかし、役者たちは悪くない。ヒロイン役に抜擢の吉田麻起子は善戦しているし、前回欠場の野口かおるも溌剌とした声と動きで、舞台に緊張感をもたらしている。もちろん、佐藤、小林、今林も、相変わらず芸達者なところを見せる。そして、今回特筆すべきは、猫のホテルから客演したいけだしんの嵌り役ぶりだろう。割と芸域の狭い人だとは思うが今回は本領発揮で、役柄のワルぶりを濃く演じ、舞台を盛り上げた。
ここ数年の間に、退団が相次いだことがややダメージにつながっているフシはある。しかし、老けるには早すぎる。この劇団には、まだまだアグレッシブで挑戦的な舞台を見せてほしいと思う。(105分)


■データ
2006年9月1日ソワレ/新宿シアタートップス