(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝道子の調査〟ペンギンプルペイルパイルズ

商業演劇という括りかたが妥当かどうかちょっと自信ないが、しかし先のパルコ劇場の〝開放弦〟は、本作に較べれば、良くも悪くも商業演劇だったなぁ、と思うことしきり。〝ワンマン・ ショー〟で第48回岸田國士戯曲賞を受賞している劇作家の倉持裕(ゆたか)が、前作からほとんど間を措かずに、今度は〝道子の調査〟という新作で、自身の劇団ペンギンプルペイルパイルズを率いる。
海にほど近い集合住宅の一室。道子(伊藤留奈)は、ナミコという女性の失踪調査の仕事でここに滞在している。6年前に、前任者の砂恵(ぼくもとさきこ)までもが行方不明となり、調査が打ち切りとなった事件を、彼女が再び調査することになったのだ。当時の関係者を再び呼び集め、事件を再構築していく道子。しかし、ナミコの失踪について話しを聞けば聞くほど、ことごとく道子の前任者である砂恵のエピソードとシンクロしていく。
正面奥に切られた大きな窓と、左右に配置された大小のテーブル。この舞台装置の一室の中で、道子の調査と砂恵の調査が、交互に、そしてときには同時に進行していく。次々に、現在と過去を頻繁に行き来する手法は、非常にスピーディな展開に繫がっていて、物語の軽快なテンポを生んでいる。途中、何度も暗転があるが、物語の流れは途切れることなく、クライマックスへとつき進んでいく。
ナミコという女性はいったい誰だったのか、そして彼女はなぜ消えたのか。この謎を中心に据えたミステリ的な興味でひっぱる展開が、物語の流れを作っていく。7人の証言から描き出される人物像は、それを繋ぎあわせると、どこか曖昧で、捉えどころがない。しかし、その正体が浮かび上がったとき、砂恵はある事に気づき、深く傷つく。終盤、唐突に砂恵が負う刺し傷は、その象徴ではないかと思った。
唐突といえば、ちょっと不敵なヒロイン道子が最後の最後でとるある行動も、非常に観客の意表をついたものだった。会社から受けた左遷同然の扱い、私生活では夫との拗れた関係、そして前任者への敗北感などからくる閉塞状況からの脱出(解放)をイメージしているのだろうか。しかし、唐突とはいえ、それらの飛躍や、過去と現在をパラレルに語る手法が、舞台に心地よい緊張感を生んでいることは間違いない。ぬるま湯につかった印象があった〝開放弦〟に較べて、わたしがこの作品を楽しめたのは、そのスリルがあったからに他ならない。(140分)


■データ
2006年8月24日ソワレ/下北沢ザ・スズナリ
2006.8.23〜9.3