(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝バイエル と 女中たち〟ころがす#1

〝ころがす〟は、劇作家岸井大輔とその弟子田口アヤコによるユニット名。そのユニットが、〝バイエルと女中たち〟と銘打ち、〝1988年6月30日、あるいはバイエル〟と〝手を離したとき目をつむっていたのか それとも最初から目はつぶれていたのか〜ジャン・ジュネ作「女中たち」より〟という2本立てで第1回公演を行った。
わたしが足を運んだのは田口アヤコ作・演出の後者で、そういえば、篠井英介、大谷亮介、深沢敦の3人(3軒茶屋婦人会)が、今年の前半に本多劇場にかけた演目がコレだったなと思い出した。〝女中たち〟は、悪と退廃の作家ジャン・ジュネが残した戯曲のひとつ。わたしは観ていないが、3軒茶屋婦人会の芝居はかなりストレートな内容だったという噂を聞いているので、さすがに同じ方法論ではこないだろうという勝手な期待感が、わたしの中でふくらむ。
上空に小物のオブジェを配置し、フラットな舞台上に濃密な舞台空間を作り出している。客入れと並行して始まっている物語は、やがてテキストの空気をうつしたかのような時代がかった役者たちのやりとりで幕があがる。しかし、幕開きのやや大袈裟な台詞に少し戸惑いながら眺めていると、舞台上に余計な人物がひとりいることに気づく。さらに、その舞台上では、同じシーンが役者の組み合わせを替え、ニュアンスを変化させながら、繰り返し演じられていく。なるほど、余計な人物は、〝女中たち〟を頭の中で作り上げているジュネ自身であったか、と得心がいった。
ときに関西弁までも登場する女中たちのやりとりは、役者たちのしのぎを削るやりとりを浮き彫りにすると同時に、さらにさまざまな角度から物語を眺める効果をあげている。オリジナルのテキストを解体し、再構築する手法としても、ユニークなだけでなく、効果的でもあるところに感心させられた。
奥様役の田口アヤコ、ジュネ役の大木裕之のほかに、男女6人がさまざまな組み合わせで、姉のソランジュと妹のクレールを演じる。その6人の個性がぶつかりあうところが、やはりこの芝居の見所で、男優陣を含めてほぼ全員が健闘しているが、しなやかな動きと濃厚な演技で舞台上に独特の空気をつくりだす大倉マヤと、ときおり天性の煌きをみせる未映子が印象に残る。
大倉マヤは、所属劇団をあとにした気負いをエネルギーにかえるような力強さが感じられたし、初めて見る未映子は、いくつかの場面でどきりとさせられる瞬間があった。歌手としての活動がメインの人らしいが、この人の資質は演技者ではないか。どれくらいの経験があるのかは知らぬが、出来れば別の舞台を是非観てみたいものだ。(95分)

■データ
2006年8月21日ソワレ(楽日)/王子小劇場
(脚本・演出)田口アヤコ