(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝電界〟猫のホテル

猫のホテルを長い間観てきた友人によると、駆け出し時代の常小屋だったこまばアゴラ劇場から、ザ・スズナリに進出した当初は、舞台が広すぎる印象をもったという。そういうことが、久々の本多劇場(2度め?)に登場した今回も言えるような気がする。ちょっと家賃が高いかな、という言い方は、旗揚げから16年のキャリアをもつこの劇団に不適切かもしれないが。
幕開きの松重豊中村まことの漫才がいい。ふたりのやりとりの中に、笑えるネタがあるわけではないが、狂気すれすれのテンション高い掛け合いから、おもむろに浦安の漁村の舞台に観客を連れていく、このタイミングがなんとも素晴らしい。この漁業で成り立つこの周辺で、埋め立てを伴う開発工事が予定されているらしい。猟師たちに漁業権を放棄させる目的でこの村を訪れた開発会社の男(中村)は、ふたつある漁業組合をそれぞれ説得しようと工作を開始する。一方、最近住み着いたばかりのよそ者の男(松重)は、文章の達者さを目当てに、地元の人々が入れかわり立ちかわり頼みごとを持ってやってくる。第二漁協の組合長も、彼が代筆した要求書を提出し、開発会社の男を驚かせる。やがて、男は仕事以外にも、この村にやってきた目的があることが明らかになり…。
前半は、舞台空間を広く使う芝居を心がけてやっているのか、装置や照明なども含めていい芝居をつくっている印象がある。しかし、終盤、中村と松重が演じる男たちの関係がわかってくると、途端に芝居が薄っぺらいものに感じられ、それと同時に舞台風景がスカスカなものに映るのは、なぜだろうか。とりわけ終盤のドタバタは、いただけない。中村と松重が舞台下に降りて演じるエピローグが、かろうじてこの芝居を救っている。
とはいうものの、市川しんぺーや村上 航、いけだしん等、役者たちの充実は、さすがに客演の経験を積んで来たメンバーが揃っているだけのことはあって、安心して観ていられる。ただ、池田鉄洋の風来坊は、存在感だけで成り立っているような役柄であることから、もう一味、濃く演じてほしかったという気はする。
今はほぼ年1回の公演ペースなのだから、この実力ある劇団にもうひと捻りある物語性を望むのは、決して欲張りな願いではないと思うのだけれども。(120分)


■データ
2006年8月3日ソワレ/本多劇場
※6日まで