(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝水〟ひょっとこ乱舞第15回公演

わたしの世代にとって、ボリス・ヴィアンの〝うたかたの日々〟(早川書房刊)は、白水社から出ていた〝日々の泡〟というタイトルで記憶にしみついている。ひょっとこ乱舞の〝水〟は、この青春小説の古典を下敷きにしているという。
それぞれの友人のデートに付き合った二人が、本人たちの低調さを横目に、いい按配に意気投合し、やがて結婚する。ところが、花嫁となった女性は、水を一定量以上摂取すると湖になってしまうという奇病にかかっており、花婿となった男が生活の糧を得ることが苦手なことなどもあいまって、結婚までのとんとん拍子とは裏腹に、ふたりの気持ちの行き違いは次第に深刻なものになっていく。
ヴィアンの小説云々は、言われてみなければ納得だが、さほど劇中に顕在化していない。それよりも、淡く、ロマンティックな演出と役者たちの演技が、独特の世界を構築しているといっていいだろう。
この劇団は初見だが、個人的には、溌剌とした台詞まわしやスピードある動きに夢の遊眠社というルーツを垣間見た思いがするが、毒がない分、健全な印象がある。〝健全さ〟が、単純にプラスの評価といえるかについては、実は微妙なところなのだが。しかし、個性的な世界観の構築には、他の若手劇団の追従を許さないものがあり、シンプルだが力強い舞台美術もそれに貢献している。
俳優陣では、すでに評判の高いチョウソンハが、ひときわ群を抜いて目だっている。他にも、印象に残った役者は何人かいるものの、全体に生硬で、生真面目さばかりが目立って、損をしている。中だるみは、演出の弱さもあるのだろうが、俳優陣が支えきれてない脆さもある。二番手以降の役者たちがさらに一皮むける成長を遂げれば、飛躍が期待できる劇団だと思うのだが。


■データ
2006年7月28日マチネ/中野ザ・ポケット