(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝無防備なスキン〟tsumazuki no ishi

tsumazuki no ishiを観てみたいと思ったのは、6月にG-up presents で赤堀雅秋演出の〝散歩する侵略者〟に出ていた寺十吾(じつなしさとる)と猫田直の存在感に圧倒されたからだが、この劇団は先ごろ亡くなった松本きょうじが主宰していたランプティパンプティのメンバーが結成したものだと知って、ちょっとびっくりした。
田舎の古い家に、10人ほどの男女が共同生活を送っている。やがて、彼らは弁護士の導きで、犯罪の加害者の家族や被害者の家族が、世間との距離を置きながら、寄り合って暮らしていることが判ってくる。身内が巻き込まれたり、拘わってしまった事件から受けるはかり知れないストレスを抱えながら、彼らの日々はひっそりと過ぎていく。
物語は、息子が殺人事件で係争中の家族、幼い娘が殺人の被害者となった夫婦、両親を事件で失った兄弟、そして痴漢の冤罪で実刑を受けた男らをめぐって、静かに進められている。彼ら相互の摩擦もあれば、思い心の病をかかえる者もある。そして、彼らの日常は、無気力な倦怠感に包まれているが、やがて、そんな彼らにかかわろうとする弁護士や怪しいジャーナリストたちとの接触を通じて、再生や破滅が待ち受けるそれぞれの道を見つけていく。
暗く、静かな舞台は、観客に目を凝らさせ、耳をすまさせる狙いがあるのだろうか。そういえば、夏という設定を共有させるためか、劇場内の室温がかなり高く設定してあるように思えた。
行き場のない物語をクライマックスに導く脚本はなかなかで、2時間20分という上演時間も、さほど長いと感じなかった。寺十吾は、なるほどうまい役者だが、アンサンブルを大切にした演出なのか、出番はほぼ均等で、彼ひとりが前面に出てくる場面は意外と少ない。猫田は、〝散歩する侵略者〟のときも感じたが、得体の知れない雰囲気を漂わせる面白い役者だ。
犯罪の加害者の家族、被害者の家族をめぐる問題は、法制なども含めて、非常に社会性を孕んだもので、人それぞれに複雑な思いに囚われるテーマだが、それを非常に冷静な目で見つめるあたりに、この芝居の懐の深さのようなものを感じた。
7月30日まで。(140分)


■データ
2006年7月27日ソワレ/下北沢ザ・スズナリ